第517話 歌姫オンステージ1(3)
『単純に今日暇だから遊ばないかって言うのが、元々の用件だよ。だから、君がお祭りに行くみたいなら僕も行く。それでいいだろ』
「それでいいだろってお前な・・・・・」
友人の強引な言葉に影人は呆れた。暁理は影人には多少強引になるところがある。まあ、暁理との付き合いも大体3〜4年になるので、遠慮がないのは仕方がないが、少しは自分の都合も考えてもらいたいものだ。
『とにかく僕も一緒に行くからね。集合場所はいつもの学校の帰り道で分かれるところ。僕も今から支度してる向かうから。じゃ、また後で』
「あ、おい! ったく・・・・・・・・」
そう言って暁理は電話を切ってしまった。影人はスマホをウエストポーチに仕舞直すと、大きなため息を吐いた。どうやら祭りに行って、1人で幼少の頃の思い出に浸る暇はあまりなさそうだ。
「・・・・・・・・人生はいつだって、悲しみの向こう側が見えたり見えなかったするもんなんだろうな」
そんなよく分からない言葉を呟きながら、影人は家を出た。
「へえー、ここが君が通ってた小学校か。君みたいな捻くれ者が通ってた割には、なんか普通だね」
「当たり前だろ。お前は俺を何だと思ってるんだ・・・・・・」
暁理が都内のとある小学校を校門の外から見つめながら、そんな事を呟く。そして、友人の言葉を受けた影人は、律儀にその発言にツッコミを入れた。
暁理と無理矢理合流させられた影人は、暁理を伴って小学校に向かうべくバスに乗った。別に歩いて30分ほどなので歩きでもよかったのだが、今日も今日とて夏らしく気温は35度を超えているので、歩きで行けば小学校につく頃には汗だくになってしまう。さらに普通に熱中症になるリスクもあったので、小学校にはバスで向かおうという事になったのだ。
バスという事もあって、小学校の最寄りのバス停には10分くらいで到着した。そこから3分くらい歩き、2人は影人が通っていた小学校の前に辿り着いた。
「んー、確かに夏祭りやってるっぽいね。ていうか、本当に僕たちも入れるの? 今そういうの厳しいでしょ」
暁理がチラリと影人に視線を向けそう聞いて来た。今日の暁理は白のシャツに、スエットのように少し緩やかなズボンという格好をしており、学校の時と同じ男っぽい見た目だ。
そして暁理が言うように、小学校の校門は休日だというのに開けられており、校門前には手作りのアーチのような物が設置されていた。アーチの上部には「◯◯小学校 夏祭り」と可愛らしい文字で書かれていた。2人の周囲には、お祭りに遊びに来た小学生やその保護者たちの姿も多く見受けられた。
「ホームページに誰でも出入自由って書いてあったから大丈夫だろ。まあ、明らかな不審者は入れないだろうがな」
「じゃあ君入れないじゃん」
「ざけんな! 誰が不審者だこらッ!? 本当にどいつもこいつも・・・・・!」
前髪野朗は唐突にキレた。なぜなら、これでここ最近3回も見た目不審者と言われたり、不審者認定を受けたからである。ふざけるな、自分は少しばかり前髪が長いだけで、顔の上半分が前髪に支配されているだけの高校生だ。断じて不審者ではない。
「な、何キレてんのさ? 別にいつもの軽口だろ?」
そんな影人の魂の叫びを聞いた暁理は、少し引いたような表情を浮かべていた。校門前にいた小学生やその保護者たちも、突然の影人の大声に驚いた様子だった。




