第516話 歌姫オンステージ1(2)
「いらない。・・・・・いってらっしゃい」
「分かった。行ってきます」
送り出す言葉を言ってくれた妹に、軽く手を振りながら影人は自分の部屋に戻った。
「準備完了――っと、電話? 誰からだ・・・・・?」
ウエストポーチに水筒を入れ、自宅を出ようとした影人。だが、その時ポーチ内から着信音が響いて来た。影人はウエストポーチからスマホを取り出すと、自分に発信して来た人物の名前を確認した。
「げっ、暁理じゃねえか・・・・・・・」
思わず影人はそう言葉を漏らしていた。自分に電話を掛けて来た人物は、影人の数少ない友人、早川暁理であった。
「無視っても色々と面倒だし・・・・・しゃーねえ、出るか・・・・・・・・」
今からちょうど出かけようとしていた影人からしてみれば、友人からの電話は色々と嫌な予感しかしないが、ここで無視をすれば何度も電話してくるに決まっている。影人は仕方なくスマホの画面をスライドした。
「何か用か、暁理」
『あ、影人。よかった、君の事だからもしかしたら面倒くさがって電話に出ないかと思ったよ』
「・・・・・・・・・・・・そんな事はねえ」
暁理が元気そうな声でそんな事を言ってきたので、影人は内心ギクリとした。さすがは数少ない自分の友人だ。よく影人という人物を分かっている。
『今の間は何さ。大方、出なかったら余計めんどくさそうだから出たんだろ? はあー全く、友人からの電話をめんどくさいって思う所は、どうかと思うよ?』
「うぐ・・・・・う、うるせえ余計なお世話だ。んで、本題は何だよ暁理。さっさと言ってくれ。俺も今から出るんだからよ」
暁理の指摘に図星をつかれた影人は、軽く悪態をつきながらそう言った。はっきり言ってそんな事はどうでもいい。問題は、なぜ暁理が自分に電話を掛けてきたのかだ。
『あ、そうなんだ。どこ行くの?』
「どこって・・・・・・・俺の通ってた小学校だよ。ちょうど今日そこで小さな夏祭りやってんだ。地元の人間なら誰でも入れるから、せっかくだし行ってみようと思ったんだよ」
暁理の問いかけに、影人は素直にそう教えた。いったい、なぜそんな事を聞くのだろうか。
『へえ、小学校の夏祭りか。いいね、君の言い方だと僕も入れそうだし、面白そうだ。じゃ、僕も一緒に行くよ』
「はあ? おい、何でそうなる。つーか、結局お前の用は何だったんだよ」
突然そんな事を言ってきた暁理に、影人は露骨に嫌そうな声を出した。影人の嫌そうな声を聞いた暁理は、『そんな嫌そうな声出すなよ』と少し怒った感じになった。




