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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第514話 歌姫オンステージ 前日(5)

 世界の歌姫と呼ばれるアメリカ人の少女、ソニア・テレフレアとそのマネージャーのレイニア・ホワイトがいるのは、飛行機のファーストクラスの室内だった。2人は数日後に日本で行うライブのために、アメリカから日本へ向かう飛行機に搭乗していた。

「まあ、あなたは日本に3年間いたから、久しぶりの日本に心が高鳴るのは仕方がないけど・・・・・それとこれとは別よ。仕事の話はしっかり聞きなさい」

「分かってるって。もうレイニーは厳しいなー」

 オレンジ色に近い金髪を揺らしながら、ソニアはレイニアを愛称で呼びながら、少し膨れたような表情を浮かべた。そんなソニアの子供っぽい仕草に、レイニアは「それが私の仕事よ」とスケジュール帳をめくった。

「とりあえず日本にはあと5時間くらいで到着する予定よ。向こうの時間でいうと、午後4時ね。今日はあなたも疲れているだろうし、関係者各位との顔合わせだけの予定よ。明日からはライブのリハーサルと調整。オッケー、ソニア?」

 レイニアがソニアにスケジュールを確認してくる。ソニアはレイニアの確認に、笑みを浮かべてこう答えた。

「オッケーよレイニー。あ、でも明日のお昼の1時間だけ自由な時間をちょうだいって言ってた件、忘れてない? どうしても明日じゃなきゃだめなのよ」 

「覚えてるわ。確か日本の時に通っていた学校のお祭りに行きたいんでしょ? 珍しくあなたが事前に言ってくれたから、なんとか1時間だけは確保したわ。その代わり、リハーサルと調整は真面目にやってね。後、行く時の変装は入念に。日本にはパパラッチがいないからって油断しちゃダメよ?」

「ありがとうレイニー。あなたの何だかんだ優しいところ、大好きよ♪ リハーサルと変装に関してはしっかりやるから心配しないで。ふふっ、楽しみだな♪」

 ソニアは嬉しそうな表情で窓の外に視線を向けた。ソニアは昔日本に滞在し、3年間ほど日本の小学校に通っていた時があった。そして、ソニアの通っていた日本の小学校では、毎年夏休みになると土曜と日曜に、小さなお祭りを開催していた。日本でのライブが夏に決まった時、ソニアは当時の小学校のホームページを検索し、まだそのお祭りが続いているか調べたのだが、どうやらそのお祭りはまだ続いているようだった。しかも、ちょうどソニアが日本に訪れる時期だったので、ソニアはかなり前からレイニアに、お祭りの日の1時間だけ自由な時間が欲しいと頼み込んでいたのだ。

(懐かしいなあ・・・・・・・友達とよく遊びに行ったあのお祭り。もしかしたら、まだ私を覚えててくれる先生もいるかもしれないし・・・・)

 ソニアの脳裏に浮かぶのは、当時の友達や先生。みんな、自分が外国人だという事に関わりなく、優しく接してくれた。友達といっぱい遊び、先生に叱られたりしたのも、ソニアにとっては忘れられない一生の思い出だ。

(でも、1番忘れられないのはあの男の子・・・・・・・私の歌を聞いて、下手くそってバッサリ言い切ったあの男の子。当時はムカついちゃったけど、あの男の子と話していた時間は、本当に楽しかった・・・・)

 ソニアは思わずくすりと笑っていた。少し暗めではあったが、かなり見た目は整っていた男の子だった。今思えば、あの男の子がソニアの初恋だったかもしれない。

(名前は何て言ったかな・・・・・・帰るとか影とかそんな感じの・・・・・・・・ああ、思い出した。確か――)

 その男の子の名前を思い出したソニアは、ほとんど無意識的にその名前を口に出していた。


「――帰城、影人・・・・・・」


「? 何か言ったソニア?」 

「いや、何でもないわ。ちょっと無意識に呟いちゃっただけだから」

 不思議そうな顔をするレイニアに、ソニアは軽く手を振ってそう言った。別にレイニアに話す話でもない。

(・・・・・奇跡でも起きて、また会えないかな)

 ソニアはそんな事を思いながら、また視線を窓の外、蒼穹広がる空へと向けた。


 ――どうやら、前髪野郎にはまた一波乱ありそうだ。

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