第511話 歌姫オンステージ 前日(2)
「双調院のお嬢様はどっちかっていうと、スプリガンは敵派やったろうから、色々考えてそうやな。まあ、スプリガンなんて滅多な事がない限り会わんとは思うけどな」
「そう、だよね・・・・・・・・双調院さんとか、大体の人はスプリガンに難しい気持ちを抱いてるだろうし・・・・・」
「アイティレさんとかも、スプリガンは明確に敵って意見だったしね。その辺りは気持ちや考えが絡んでくるから、本当に難しいところだわ」
陽華と明夜が火凛のコメントに対してそんな事を言っていると、ガラッと会議室のドアが開かれた。会議室に入室してきのは、午前の研修の講師でもあり、この扇陣高校の校長でもある神崎孝子であった。
「皆さん、おはようございます。今朝もよい天気ですね」
会議室の前方の壇上に上がった孝子は、研修生たちにそう挨拶した。研修生たちも孝子に挨拶を返す。そして研修生たちの挨拶を聞き終えた孝子は、こう言葉を放った。
「さて、今日は午前の研修に入る前に1つ話さねばならない事があります。皆さんも既にソレイユ様、ラルバ様から手紙を受け取った事かと思います。そう。スプリガン、彼の人物に関する両神の正式な決定意見の手紙です」
孝子の言葉を聞いた研修生たちの表情が、「やはりその事か」といった感じになる。孝子は自分も昨日、日本政府を通してソレイユとラルバの決定意見の事を知らされたと研修生たちに伝えた。
「昨日行われた光導会議と守護会議の結果を元に、ソレイユ様とラルバ様が決定した意見は、スプリガンが攻撃してこない限りは、こちらもスプリガンを攻撃しない、敵と認識しないというもの。また、この正式決定に伴い、今まで限定的であったスプリガンの情報を全世界の光導姫と守護者に伝達。これで、全世界の光導姫と守護者もスプリガンの事を知る事となりました」
この場にいる全員はもはや知っている事だろうが、孝子は改めてそう言葉を紡いだ。孝子の言葉には、「スプリガンの存在は全世界の光導姫と守護者に知られる事となった」という箇所があったが、実はそうなのだ。今まで、光導十姫と守護十聖、またスプリガンが出現する日本の光導姫や守護者たちしか知らなかったスプリガンの存在が(といっても、日本の光導姫と守護者の多くも、ほとんど噂レベルでしか知らなかったが)、全世界の光導姫と守護者に伝えられる事となった。
その理由は、もしスプリガンが日本以外の国にも出現した場合、スプリガンの事を知らない光導姫や守護者たちが、スプリガンを攻撃してしまってはいけないからというものだ。ソレイユもこればかりは仕方ないと考え、全世界の光導姫と守護者にスプリガンの存在を知らせる事を止めなかった。ソレイユが危惧していたのは、あくまでスプリガンが全世界の光導姫と守護者から敵認定される事。存在を知られる程度ならば、現段階ならまだ許容の範囲内だからだ。




