第510話 歌姫オンステージ 前日(1)
8月11日土曜日。光導会議と守護会議でスプリガンに関する意見が議論され、その結果を元にソレイユとラルバが話し合いをして、スプリガンに関する正式な意見を決定した次の日。日本の光導姫や守護者たち、主に研修を受けている者たちは、周囲に多くの仲間がいる事もあり、ザワザワと騒いでいた。
「おい、今朝届いた手紙見たか? 昨日の会議の結果を元にソレイユ様とラルバ様が決めたっていう・・・・・・」
「ああ、スプリガンに関する決定意見だろ? 向こうから攻撃してこない限りは、敵と認識しないっていうあれ。その分、こっちから攻撃する事も禁止するっていう・・・・・・・」
時刻は午前8時50分ほど。午前の研修を受けるために、扇陣高校2階の会議室に集まっていた新人の光導姫・守護者たちはそんな事を話し合っていた。
「朝起きたら枕元に手紙あってビビったけど、昨日あの鬼講師陣ども、あないなこと話し合っとったんやな。まあ、とりあえずは良かったやんか。陽華、明夜。条件付きやけど、スプリガンが敵って認定されんで」
自分の前の席に腰掛けている、この研修期間の間にすっかり仲良くなった2人――陽華と明夜に向かって、火凛はそう話しかけた。ちなみに、鬼講師陣どもというのは、アイティレ、真夏、風音たちの事である。研修生たちは2日前から彼女たちに、それはそれは厳しい研修を受けさせられているので、火凛は陰ながら3人の事をそう呼んでいるのだ。
「うん! それは正直に言ってよかった! 私も今朝ソレイユ様からの手紙を見た時は、すっごいホッとしたし、嬉しかったから!」
「火凛の言うように、条件付きではあるけれど、スプリガンが明確に敵と認定されないっていうのは、本当に良かったわ。しかも、ソレイユ様とラルバ様の正式決定だし、そこも安心」
火凛にそう話しかけられた陽華と明夜は、表情を明るいものにしながらそう言った。スプリガンの敵対宣言を聞いた時は、ショックも大きかったが、スプリガンが自分たち光導姫・守護者サイドから明確に敵と認定されるのではないかと、2人は実はずっと心配していた。だが、その心配は今日消えたわけだ。
「ふ、2人が嬉しそうなのは、いい事だと思う・・・・・わ、私からも一応おめでとう・・・・・・・」
火凛の横にいた暗葉も、陽華と明夜にそう言葉を掛けてくれた。火凛と暗葉は、2人がスプリガンとどう関わりがあり、2人がスプリガンに対してどのような思いを抱いているのか知っているので(2人が以前話したから)、そんな言葉を掛けてくれるのだろう。そんな素敵な友人の言葉に、陽華と明夜も礼を述べる。
「でもまあ、2人みたいに喜んどる奴もいる一方、あんまり愉快に思っとらん奴もいるやろなあ。例えば・・・・・・双調院のお嬢様とか」
火凛が視線を陽華と明夜の2人から外し、チラリとその視線を違う方に向ける。火凛の視線の先には、会議室の右前方の席に座っているツインテールの髪型の少女、双調院典子がいた。典子はノートとペンを机に用意し、背筋を真っ直ぐに伸ばし座っていた。いかにも真面目、優等生といった感じだが、その表情は何やら険しいように感じられた。




