第508話 光導会議(後編)6
「ほら、これでいいのでしょう。金額は100ポンド・・・・・あなたの国の通貨で言うと、大方1000元といったところですわ。換金方法は、守銭奴のあなたならご存知でしょう」
「お! まあまあ太っ腹じゃねえか。まあ、貴族様にしちゃ、ちょいと少ない気もするが、いいぜ乗った。つーわけで、雇い主様。私の意見は、スプリガンを敵とは認定しない意見で」
「え・・・・・・!?」
メリーから小切手を見せられた菲は満足そうに頷くと、上機嫌な感じでソレイユにそう言ってきた。流石のソレイユも、今目の前で堂々と行われた取り引きには呆気に取られていたからだ。
「全く・・・・・つくづく金ですわね、あなたは」
「私の国じゃそれが普通だ。会議終わったら渡してくれよ」
ソレイユだけでなく、アイティレや風音が呆気に取られている中(他の光導姫たちは、呆れていたり、それほど驚いてはいなかった)メリーと菲はそんな会話を続けていた。そして驚きから立ち直ったアイティレは、彼女にしては珍しく怒ったような口調でこう言った。
「ふざけるなッ! 今のは明らかに意見の買収だろう!? いくらどのような理由と意見が保証されていると言っても、今のような事は論外のはずだ!」
「おーおー、怖い怖い。さすがは正義感の強い『提督』さんだ。だが、てめえは何か勘違いしてんな。私はメリーが決め手を示してくれたから、その決め手に従っただけだ」
激昂するアイティレに、菲はメガネをクイっとしながらしれっとそう述べた。
「そんな屁理屈が・・・・・・!」
「あ? どこが屁理屈だよ。私の意見にはそれだけの価値があるって事だ。それを分かってるから、イギリスのお貴族様は私の意見に値段をつけたんだ。別に私の意見を変えようとするなら、簡単な話だぜ? 認定する派の誰かが、お貴族様以上の決め手を提示してくれりゃあいい。それだけで私はまた迷うだろうよ」
菲はつらつらと自分の言葉を述べる。そして、アイティレの言葉にどこまでも反論するようにこう言葉を続けた。
「出来ねえなら、私は今の意見で決定だ。そんだけお貴族様の方が、私の意見を買ってくれてるって事だし、覚悟があるって事だからな。そもそも、こんなバラバラの国の奴らの価値観が1つなわけねえだろ。なら、それを否定するんじゃなくて折り合いをつけるってのが自然だ。てめえの怒りは筋違いもいいとこだ。分かったか『提督』?」
「ぐっ・・・・・・・・・!」
菲の言葉に中々反論するような言葉が出てこない。そもそもアイティレとはあまりにも違いすぎる価値観だからだ。菲は意見を変えさせたいなら、メリー以上の決め手となる価値、つまりメリーが示した以上の金を提示しろと言っている。だが、アイティレはそんな事をするつもりなどサラサラなかった。なぜなら、それは彼女の中では正しくないからだ。




