第507話 光導会議(後編)5
「分かりました、風音。意見をありがとうございます。これで敵と認定する意見が4、敵と認定しない意見が5ですね。では、最後は・・・・・・菲、あなたの意見を聞かせてくれますか?」
ソレイユは光導十姫の最後の1人、菲の方に顔を向けた。最後の1人の意見という事もあり、必然菲以外の光導姫の視線も全て菲の方へと集中する。何せ、菲の意見で会議の結果は変わるからだ。
現在の会議の状況は、アイティレ、エルミナ、メティ、真夏がスプリガンを敵と認定する意見で、意見の数は4。対して、ファレルナ、ソニア、風音、メリー、ロゼがスプリガンを敵と認定しない意見で、意見の数は5。つまり、菲が認定する意見に回れば、比率は5対5となり会議は振り出しに戻る。しかし、菲が認定しない意見に回れば意見の比率は4対6となり、光導姫側の意見として、スプリガンを敵と認定しない結果が確定する。以上のような背景があり、菲の意見次第で会議の結果は変わると言っても決して過言ではない。
「私の意見ねえ・・・・・・・・まあ、率直に思った事を言うなら、そのスプリガンを敵と認定しないって言うのは色々と楽観的だと思うよ。つーか、普通にヤバい奴だって感じるしな」
全員の注目が集まる中、ランキング9位『軍師』の菲は全く気負ったような素振りも見せずに自身の意見を述べる。菲の意見はどちらかと言うと、敵と認定する意見に近い。そんな菲の言葉を聞いたアイティレは、チャンスとばかりに菲に確認の言葉を取ろうとした。
「では、『軍師』。お前の意見は、敵と認定するという意見で――」
「――だが、物事ってのは必ずしも安定択が正解とは限らない」
間違いないな、とアイティレが言葉を続けようとした矢先、菲はそんな言葉を述べた。
「なに・・・・・・・・・・・?」
「勝手に私の意見を決めようとするなよ、『提督』さんよ。私はな、これでもさっきからずっと考えてたんだぜ? どっちの方がいいかってな」
眉をひそめるアイティレに、菲は面白くなさそうに言葉を返すと、ため息を吐いた。
「安定択は今言ったみたいに、スプリガンを敵と認定する事だ。そっちの方がリスクは少ないし、不確定要素を排除出来るしな。だが、世の中には面倒極まりねえ事だが、安定択が正解じゃなく、リスクのある方が正解の時もある。今回の場合だと、スプリガンを敵と認定しない事の方がリスクは高いが、クソ強い強力ユニットがいつか味方になるかもしれねえっていう、ハイリターンな結果が付いてくる可能性があるって事だ。・・・・・・・・・ま、要はよ、決め手がねえんだよな。私がどっちの意見を取る方が得かっていう明確な決め手がよ」
菲は途中までは難しそうな表情を浮かべていたが、不思議な事に一旦言葉を切った辺りから、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、メリーの方に視線を向けていた。
「ふん・・・・・・なるほど、そういう事なんですわね? あなたの守銭奴ぶりには反吐が出そうですが、いいでしょう。乗ってさしあげますわ」
他の者たちがキョトンとしたような表情を浮かべる中、菲の言わんとしている事をただ1人察したメリーは、自身が常に持ち歩いているある紙とペンを取り出し、そこにサラサラと手慣れた様子で何かを書きつけていく。そしてメリーはその紙を菲に見せた。




