第494話 守護会議(後編)4
「イヴァンらしい理由だな。イヴァンの意見は分かった。これで認定派は5人、この場の過半数がスプリガンを敵と認定する事になった。でもまだ後2人意見を聞いてないし、次はお前の意見を聞かせてくれるか、プロト?」
ラルバがその顔を自分の左隣、そこに座るプロトに向けた。必然、ラルバ以外の円卓全員の視線もプロトに集まる。プロトはランキング1位。別に守護者にランクの偉さなどはないが、ランキング1位という、ある意味守護者の顔である人物はどのような意見を述べるのか、この場の全員が興味を覚えたからだ。
「僕の意見ですか。そうですね、僕の意見は・・・・・・スプリガンを敵と認定する事には、反対です」
「っ・・・・・!?」
「へえ・・・・・・・・それはまたなんでだ?」
ランキング1位『守護者』のプロトは少しだけ笑みを浮かべて意見を述べる。今までの賛成派とは違う意見に光司は驚いたような表情を浮かべる。他の守護者たちも光司ほどではないにせよ、驚いたような又は興味深そうな表情を浮かべていた。
「光導姫や守護者を助けた、という事実があるからですね。もちろんスプリガンを敵と認定する認定派の意見はもっともだと思います。ですが、単純に彼を敵と定めてしまうには、どうもその部分が引っかかります」
ラルバの問いかけにプロトはニコリと笑うと言葉を続けた。
「完全に敵であるならば、光導姫と守護者を助ける必要はありません。聞けばスプリガンは1度ではなく何度も光導姫や守護者を助けたとの事。彼の目的は分かりません。光導姫や守護者を助けた事もあれば、光導姫や守護者を攻撃する事もある。そのような存在は確かに危険でしょう。ですが、そういった存在をただ危険と恐れ敵と定めてしまうのは、余計な争いを生むだけです。余計な争いに力を注ぎ込むのは、正しくないと僕は思います」
プロトはランキング1位としての自分の意見を述べ終えた。今までの中でただ1人のスプリガンを敵と認定しない、否定派の意見。プロトの意見が述べられた後、円卓には数瞬の間沈黙が訪れた。
「・・・・・・・甘いな、『守護者』。お前の意見はどこまでも甘い」
「希望的観測が多いように感じるな」
そんな声が2位の席と7位の席から上がった。前者はハサン、後者はエリアだ。
「甘い、という意見と希望的観測が多いという意見は充分承知しているよ。でもこれが僕の意見だ。スプリガンは敵とは認識しない。それがランキング1位としての意見だよ」
だが、そんな2人の言葉を受け入れつつもプロトは自身の意見を変える事はなかった。ただ朗らかな笑みを浮かべ続けているだけだ。
「お前の意見は分かったよ、プロト。お前の意見も立派なランキング1位としての意見だ。・・・・・・・・でも、スプリガンは必要があるなら、光導姫や俺たち守護者を潰すという宣言を既に行った、といったらどうする?」
プロトの意見を認めたラルバ。しかし、ラルバはそこで先ほど説明すると言っていたスプリガンの「敵対宣言」の事を持ち出した。
否定派が現れる。このタイミングでスプリガンの敵対宣言の事を話すのが、ラルバの狙いの1つだった。
(悪いなプロト。タイミングをこちらの都合のいい方に持ってこさせてもらった。別に肯定派は過半数を超えたし、スプリガンを敵と認定する事はほとんど確定みたいなもんだが、せっかくなら全員肯定派の方がいいからな)
ラルバはスプリガンを敵と認定したい。だが、この会議の結果に関する決定権を持っているのは、自分ではなくあくまで守護者たちだ。ゆえにラルバの一存でスプリガンを敵と認定する事は出来ない。
だが、印象操作をする事は出来る。会議の進行をしているのはラルバだからだ。ゆえに、ラルバは否定派が現れたタイミングでスプリガンの敵対宣言の事を言おうと決めていた。その方がスプリガンの印象は悪く、さらに危険なものという印象を与える事が出来るからだ。




