第490話 守護会議(前編)5
「――遅れてしまって本当に申し訳ない。どうしても外せない用事があって」
開口一番、そう言って現れたのは上品なスーツに身を包んだ1人の青年だった。
その青年はブロンドの髪の白人だった。整った顔は柔らかな笑みを浮かべており、一見するとラルバによく似ているが瞳の色が違う。ラルバが青色なのに対し、現れた青年の瞳の色は翡翠色であった。
服装はいわゆるスリーピーススーツで、灰色のチェックのジャケットに同じく灰色のベスト、下半身にはジャケットと同じ色柄のスラックスを履いている。胸元のネクタイは紺色で、そのネクタイの色が灰色に合うアクセントになっている。靴は当然ながら革靴だ。
保守的にも映るスーツ姿は、青年の雰囲気も相まってまさに英国紳士といった感じである。
「大丈夫だプロト。事前にお前からは連絡もらってたからな。さあ、席に着いてくれ」
「承りましたラルバ様。お心遣いありがとうございます」
ラルバに軽く礼をして、プロトと呼ばれた青年はラルバの左横、『傭兵』の右横の席へと腰を下ろした。椅子に座る所作1つ見ても、青年の所作は洗練されていて優雅であった。
(っ!? あの席はランキング1位の席、ということはあの人がランキング1位・・・・・・『守護者』か・・・・・・・・・・!)
ランキング1位『守護者』。守護者において『守護者』の名を与えられた守護者の中の守護者。何があっても光導姫を守り抜くと言われている人物だ。光司の目標であり憧れの人物でもある。
「さて、4位の『死神』と9位の『弓者』は今日は出席できないって事前に連絡もらってるから、これで今日会議に出席する全員が揃った計算になるな」
「ええー、また『死神』の奴は欠席すか。『弓者』は去年来てたから別にですけど、『死神』の奴毎回来ないじゃないっすか。俺、あいつの姿見たことないっすよ。明らかにズル休みでしょうよ」
「まあ、そう言うなショット。『死神』の奴も色々と忙しいんだろうぜ。俺はあいつのこと知ってるけど、ズル休みするような奴じゃないと思うよ」
プロトが席に着いた事を確認したラルバが円卓を見回す。ラルバの言葉を聞いたショットがそんな言葉を漏らすが、ラルバは苦笑を浮かべそう答えを返した。
「んじゃ、そういう事だから会議を始めようぜ。一応いつもの形式通り開会の宣言だけするけど、返事とかはしなくて大丈夫だ。あ、光司は初参加だから言っとくが、俺が今からお前らの守護者名と名前を呼ぶんだ。返事しなくていいっていうのはそれな。名前は嫌なら呼ばないけどどうする?」
「あ、分かりました。名前に関しては普通に呼んでもらっても大丈夫です」
「了解だ」
ラルバの説明を聞いた光司が頷くのを確認すると、ラルバはニカリと笑った。そして少し真剣な表情を作ると、ラルバは円卓に着いている者たちの守護者名と名前を声に出した(光司以外の者たちの顔ぶれは去年と変わらず、また名前の確認は去年とそれ以前の会議で取っているので、他の者たちの名前も声に出された)。
「――守護者ランキング1位『守護者』、プロト・ガード・アルセルト」
名前を呼ばれた『守護者』は上品な仕草で頷き、
「――守護者ランキング2位『傭兵』、ハサン・アブエイン」
名前を呼ばれた『傭兵』は変わらず無表情を浮かべ、
「――守護者ランキング3位『侍』、剱原刀時」
名前を呼ばれた『侍』はへらりと笑い、
「――守護者ランキング5位『凍士』、イヴァン・ビュルヴァジエン」
名前を呼ばれた『凍士』はその面を上げ、
「守護者ランキング6位『天虎』、練・葬武」
名前を呼ばれた『天虎』はその両目を開き、
「――守護者ランキング7位『銃撃屋』、エリア・マリーノ」
名前を呼ばれた『銃撃屋』は帽子の鍔を上げ、
「――守護者ランキング8位『狙撃手』、ショット・アンバレル」
名前を呼ばれた『狙撃手』は長髪を揺らし、
「――守護者ランキング10位『騎士』、香乃宮光司」
名前を呼ばれた『騎士』は真剣な表情でグッと机の下で拳を握った。
「以上8名と俺、守護者の神ラルバの名を以て、ここに『守護会議』の開催を宣言する」
ラルバの開会の宣言を以て、今年の守護会議の幕は開かれた。




