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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第49話 風洛高校の愉快な生徒たち(3)

(ふ、案の定全くわからん・・・・・)

 テストが始まり、問題をざっと見た影人はにやりとした顔でそう思った。普通そのような笑みは、「楽勝だ!」とか思う時に浮かべるものだと思うが、こいつはどこか頭がおかしいのでこのような笑みを浮かべたのだろう。

(だがしかし! 俺にはこれがある!)

 教師の隙を窺い、影人は袖口に仕込んだカンニングペーパーをそれとはなしに見る。そしてわかりそうな問題に単語を書き込んでいく。

(最高だな! カンニングってやつは!)

 まるでどこぞの戦争屋のようなセリフを心の中で呟き、影人はドキドキハラハラといった感じで教師の位置などを確認した。

(今のところバレてる感じはしねえ。俺は大丈夫だ。問題は・・・・・・)

 影人はきのう図書室に集った他の6人のことを心配した。普段、他人のことは何とも思わない自分だが、彼らにはこの試練を突破してほしいと考えていた。


 その頃、男子生徒Bがいる教室では、

「君、カンニングしてるだろ。外に出なさい」

 中年男性教師の厳しい声が響き渡っていた。

「な!? お、俺いや僕ですか!? 言いがかりですよ! 一体なにを根拠に――」

 焦ったBは癖なのかメガネをくいっと持ち上げる。すると、中年教師はそのメガネを没収した。

「あ、何をするんです!?」

「なるほどな。メガネのレンズに紙を貼り付け、その紙面が見えないようにするために片方だけ鏡のレンズをメガネのレンズにくっつけた訳か」

「な、なぜわかったんだ!?」

 仕組みを見られたからそのような説明をしたことには納得できた。しかし、なぜ自分がカンニングをしていると気がついたのか。メガネを使っている自分だからこそできるこのやり方を完璧だと自負していたBにはまるで意味が分からなかった。

「なぜって、そりゃ君の目がなかったからだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「このやり方だと当然君の目が外から見えないだろう?」

「た、確かに・・・・・・・!」

 そんな盲点があったとは。Bは目から鱗が落ちた気分だった。

 冷静に考えればわかることなのだが、自惚れていたBはその事に気がつかなかったのだ。

「ほれ、わかったら廊下に立ってなさい。あと、君その他の教科ゼロ点確定だから」

 無情な死刑宣告を受けたBは言われた通りにトボトボと廊下に出た。同じクラスの生徒たちはざわついていたが、アホに構っている暇がないことを思い出したのかテストに取り組んでいた。

「くっ! どうやら俺はここまでのようだ・・・・・後は頼んだよ勇者たち」

 Bは悔しそうな表情を浮かべながら、そう呟いた。

 あーあ、これで夏休みの補習は確定だ。嫌だなー。心の底からBはそう思った。

 何はともあれ、これで1人脱落だ。残りのカンニング野郎たちは6人になった。


 しかし、その後。

「おい、お前カンニングしてるだろう!? 廊下に出てろ!」

 消しゴムにカンニングペーパーを貼り付けていたAも。

「カンニングは不正行為です。外に出なさい」

 シャープペンシルにこれがデフォルトの模様だと言わんばかりにカンニングペーパーを巻き付けていたCも。

「はいー外出てろー」

 ネクタイの裏側にペーパーをくくりつけていたDも。

「よくこれでバレないと思いましたね・・・・・・」

 手の内側に細切れにペーパーを貼っていたEも。

「全く今でもカンニングするやつなんていたんだな・・・・・・・」

 ポケットティッシュの中にペーパーを忍ばせていたFも。

 結局、カンニングがばれてB同様全員廊下に立たされた。

「くそ・・・・・・これで6人がアウトか。残りはあの前髪くんだけ・・・・・」

 惨状を確認したBが代表したように呟いた。

「ああ、俺らの希望は彼に託された・・・・・・」

 呼応するかのようにAが真剣な眼差しで虚空を見る。

 その他のC、D、E、Fも残り1人になったしまった勇者の無事を祈る。

 そして6人はお互いの顔を見合わせてこう言い合った。

「「「「「「とりあえず・・・・・・補習で会おうぜ」」」」」」

 格好つけた感じでそう言い合った6人だが、心の中では、「真面目に勉強しておけばよかった・・・・・」と激しく後悔していた。ざまあみろである。







「やりきったぜ・・・・・・」

 なんとかバレずにテストを終えた影人はホッと一息をついた。

(俺の他の勇者たちは残念なことに、バレちまったが、お前らの犠牲は無駄にしねえぜ・・・・・・)

 1時間目のテストが終わったときに、彼らがカンニングしたという噂が流れてきたのだ。まことに残念だがバレてしまったものは仕方ない。

「さて、俺も帰るか・・・・・」

 まだ初日のテストが終わっただけだが、今日バレなかったという結果は大きかった。さっさと帰って明日のテストの分のカンニングペーパーを作らねば。

 影人が教室を出て昇降口へ向かおうとすると、声が掛けられた。

「おーい、帰城。ちょっと待て」

「? 何ですか先生」

 面倒くさそうな声色こわいろで影人を呼び止めたのは、影人の所属する2年7組の担任教師、榊原さかきばら紫織しおりだった。

 見た目もダウナーな感じの今年27歳の面倒くさがり教師と生徒に知られる彼女が一体自分に何の用だろうか。

「うん、ちょっとな。――お前、カンニングしただろ」

「・・・・・・・・・は、はい?」

 ポンと肩に手を置かれて囁くような声でそう言われた影人は、上ずった声でとぼけたふりをした。

「とぼけんのはなしだ。今日ウチのクラスの1時間目の教師がこっそり私に教えてくれてなー。いやー弱み握っといてよかったわ」

「え? 先生いま何て・・・・・・・・」

 少しヤバイことというか教師にあるまじき言葉を聞いた気がしたが、きっと気のせいだろう。・・・・・・・気のせいだと信じたい。

「まあ、2時間目と3時間目の教師には奇跡的にバレなかったみたいだけど。確か、袖口だっけか」

「あ、ちょっと・・・・・!」

 影人の制止も聞かずに紫織は影人の袖口を捲る。すると、まだ回収していなかったカンニングペーパーが露わになった。

「おーおー、こりゃ歴とした証拠だな」

「あ、あのこれは・・・・・・」

 影人がなんとか理由をこじつけようと言葉を探していると、紫織は全く覇気のない声でこう言った。

「なーに、私も面倒なのは御免だ。だから大事にはしたくない、面倒くさいからな」

「は、はあ・・・・・」

 果たして教師がそれでいいのかと思うところはあったが、紫織がそう言うのならその方に超したことはない。

「だから、明日からは真面目にやれよ。それとこれはでっかい貸しだからな。いやー、お前見た目の割にはけっこう大胆だなー。ま、おかげでいいカモが手に入ったけどさ」

 紫織は軽く笑みを浮かべながら、バンバンと影人の背中を叩いた。

「いや、あの先生俺は――」

 本人の前でカモと言い切る実はヤバかった担任教師に影人が何か言おうとすると、

「文句はないな?」

「・・・・・・・は、はい」

 全く笑っていない目を向けられ、影人は思わず首を縦に振っていた。

「それならいいんだ。じゃ、さっさと帰れ」

 そう言うと、紫織はどこかへと行ってしまった。

「・・・・・・・・あの人、怖えな」

 大人の怖さというか人の二面性を見た影人は少し震えていた。


結果、カンニングをした7人のアホたちは内6人が補習確定。残り1人が担任に弱みを握られるという、何とも不思議? な結果になった。どちらがマシかは難しいところである。

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