第475話 妹と隣人と(5)
「――さ、流石に三徹はキツいなあ・・・・・・」
デスクトップ型のパソコンのディスプレイをその糸目で見つめながら、響斬はそうぼやいた。
響斬が座布団に座りながら、パソコンを見つめているこの場所は響斬の住居である。扇陣高校の近くにある木造の少しボロめの平屋だ。扇陣高校も風洛高校と同様、東京の郊外にあるため響斬の住居も都心と比べればかなり静かな場所にある。
響斬のいる部屋は畳が敷かれた和室であった。広さは8畳ほどであろうか。パソコンが置かれているテーブルの他には、周囲には本棚がズラリと並んでいた。
その他にも日本家屋の平屋という事、響斬が1人でここに住んでいるという事もあり、部屋数はこの部屋以外にもあと4つほどあるのだが、1つは寝室、1つは居間として利用している。残り2室は全くと言っていいほど使っていない。
「うーん、でも帰って来てから真面目に情報収集してたのと、三徹してたおかげで何個かそれらしい情報は集まったし・・・・・ああ、でも全部嘘の情報の可能性もあるしなー」
響斬はゴロンと畳に寝転がり、ため息を吐いた。響斬が日本に戻って来たのは8月2日。そして今日の日付は8月7日。響斬が日本に戻って来てから5日が経過していた。チラリと部屋に飾ってある時計を見てみると、時刻は午後4時を少し過ぎた辺りだった。もう夕方かと思いながら、響斬はここ数日の事を思い出した。
初日は帰ってすぐにインターネットを利用して、黒いカケラに関する情報収集をして、夜に近くの山に不法侵入をして剣の基礎稽古。素振りは1000回を超えた辺りから数えるのをやめたので、正確な数字は覚えていない。その後に帰って就寝した。
2日目は朝から昼過ぎまで情報収集をして、残りはまた山に入って基礎稽古をした。素振り、我流の型稽古、山を駆け回ったりと言った事を9時間ほど行った。帰ってきたのは夜の12時を過ぎた辺りだったと思うが、疲れていたので風呂に入りすぐに就寝した。
3日目は2日目と似たようなスケジュールを行い、それから4日目から今に至るまでは寝ずに情報収集と基礎稽古を響斬は行っていた。
「闇人は別に寝なくても死なないけど、疲れはするんだよなー・・・・・・・・」
ふうと息を吐き、響斬は寝転びながら軽く自分の肩を揉んだ。光の浄化以外では死なない闇人に疲労死はないが、疲れは感じるのだ。それが3日ほど休む間も無く行動し続けていれば、疲れたという体感はかなりのものになっている。
「よっと・・・・・とりあえず後少ししたら一旦寝よう」
響斬は体を起こすと再びパソコンのディスプレイに目を向けた。そこには響斬がここ数日間で調べた、黒いカケラに対する様々な情報が記されていた。まあ、ネットで片っ端からそれらしい情報を集めただけなので、先ほども呟いた通りほとんどは関係ない情報か虚偽の情報だろうが。
「1個くらいは当たりを引きたい所だなー。日本国内の噂や情報に限れば・・・・・5件くらいか」
響斬が集めた情報の中から、日本国内の物をピックアップして響斬はその情報を詳しく見ていく。残念ながら場所に東京は含まれていないし、不正確な位置情報も3つある。ゆえに場所が分かっているのは、実質2つだけだ。
「・・・・・・1つは千葉県だから行けなくもないけど、もう1つの場所は流石に無理だなー。とりあえず、明日千葉県に行ってみるかな。で、外れだったら残り1個の場所をレイゼロール様に教えるか。・・・・・・・あ」
明日の予定を纏める響斬。だが、そこで響斬は気づいてしまった。1つの致命的に面倒な問題に。
「・・・・・・・・まずいな。レイゼロール様にこっちから連絡取る方法なかったんだった。でも、流石にあそこまで戻るのは効率悪すぎるし、面倒に過ぎる・・・・」
レイゼロールと闇人の間には見えない経路のようなものが存在しており、その経路を通じてレイゼロールは闇人に自分の意思や思いを伝える事が出来る。だが、その経路を通じた念話はレイゼロールから闇人への一方通行で、闇人側からレイゼロールに念話を行う事は出来ない。しかも、レイゼロールは当然のことながら携帯電話を持っていないので、響斬がレイゼロールに連絡を取ろうとすると、あの本拠地に戻りレイゼロールと直接話すしか方法がないのだ。
唯一、レイゼロールに距離に関係なく連絡を取れる人物は、十闇第4の闇、『真祖』のシェルディアだけだが――
「ん・・・・・・? そういえば、シェルディア様は東京にいるってレイゼロール様が言ってたな・・・・・・・なら、千葉県が外れだった場合は、シェルディア様と接触してレイゼロール様に連絡を取ってもらえば・・・・・って、ぼかぁシェルディア様が東京のどこにいるのかも知らないんだった」
再びドサリと畳に寝転びながら、響斬は2回目の疲れたようなため息を吐いた。全く、問題が多いことだ。
「・・・・・・・・・でもまあ、やるしかないか。そいつが僕が日本にまた戻ってきた理由だしね」
とりあえず、千葉県が当たりなら全部解決なんだけど、と心の底から思いながら、響斬はその瞼を完全に閉じた。とりあえずまた考えるのは起きてからだ。
「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・・」
数分すると、響斬は規則的な寝息を立て完全に眠った。
その寝顔は最上位闇人という光導姫・守護者の敵という事実と関係なく、
――ただの、1人の人間のようであった。




