第472話 妹と隣人と(2)
「こんにちは。うん、学校の帰り。ちょっと用事があったから。そういうシェルディアちゃんは・・・・・?」
穂乃影がシェルディアにそう言葉を返す。気がつけば、随分と家の近くまで来ていたようだ。シェルディアと出会ったのは、穂乃影やシェルディアが住むマンションから5分ほどした所の路地であった。
「私は散歩の帰りよ。今日はちょっと遠めの場所まで散歩してたの。キルベリアもついてこさそうとしたんだけど、こんな暑い中外に出たら死ぬって言って聞かなくってね。だから1人で散歩してたの。全く、メイド失格ね」
「そうなんだ・・・・・・・でも、キルベリアさんの気持ちも分かるかも。今日本当に暑いし。シェルディアちゃんは暑くないの? そのゴシック服けっこう暑そうに見えるけど・・・・・・・・」
シェルディアが帰城家の隣に部屋を借りて、少しした後にシェルディアのところにやって来た、緑髪のグラマラスなメイドの姿を穂乃影は思い出す。穂乃影がキルベリアと会った事があるのは1、2回。こう言っては失礼かもしれないが、確かにあまり炎天下が似合う人物ではなかった。
「私? 私は別に暑くないわよ。体温が人よりちょっぴり低いから」
「そうなんだ・・・・・・」
穂乃影の質問に、シェルディアはクスリと笑みを浮かべた。確かにその理由も嘘ではないが、実際のところはシェルディアは体温を自己調節できるというのが本当の理由だ。だが、バカ正直にシェルディアはそうは言わなかった。シェルディアも人間社会に溶け込んでからもう随分と長いからだ。
「で、あなた何か悩みでもあるの? なんだか随分と難しい顔をしていたけど」
家が同じマンションという事もあり、穂乃影とシェルは並んで歩き始めた。そして日傘を差しながら、シェルディアが唐突にそんな言葉を穂乃影に投げかけてきた。
「え・・・・・・・・? いや、別に・・・・・・」
見透かしたようにそう言ってきたシェルディアに、穂乃影は内心ドキリとしながらもそう答えた。自分のあの気持ちや、その気持ちを抱いた背景を穂乃影は年下の少女に知られたくなかった。
「ふーん・・・・・・・そう。なら深くは問わないわ。あなたのあんな顔は初めて見たから、多少は興味があっただけだしね」
「っ・・・・・そんなに難しい顔してた・・・・・・?」
続くシェルディアの言葉に、穂乃影は思わずそう聞き返していた。穂乃影からそう聞き返されたシェルディアは「ええ」と答え、大人っぽい笑みを浮かべる。そのシェルディアの年不相応の笑みに、穂乃影はなぜか、どこか安心のようなものを感じた。
「・・・・・・・・シェルディアちゃんは、あの人の事を・・・・・・帰城影人の事をどう思ってる? その、別に恋愛的なそういうのじゃなくて、性格とか人柄とかそういう感じの意味で」
その安心感のようなものゆえか、穂乃影はついそんな事をシェルディアに聞いていた。言って、しまったと内心穂乃影は思ったが、もう既に遅い。言葉はシェルディアへと伝わってしまった。




