第471話 妹と隣人と(1)
「・・・・・・・・・・・・」
明日からの研修についての話し合いが終わった穂乃影は、真っ直ぐに帰路へと着いていた。スムーズに話が進んだ事もあり、話し合いは40分ほどで終了した。
(・・・・・・・何であの人は榊原さんや香乃宮さんと関わったんだろう)
穂乃影は真夏と光司から兄の事を聞いてから、ずっとそんな事を考えていた。いつからか孤独を好むようになった兄。人と関わる事を嫌うようになった兄が、なぜあのように明るい人たちと関わるようになったのか。
それとも、また自分の知らない内に兄の性格は変わったのだろうか。穂乃影は先ほどから同じ事を考えては、同じ推察に至っていた。
しかし、実際には穂乃影の推察は間違いであると言わざるを得ない。影人が真夏や光司と関わったのは、それが成り行きや偶然であったからだ。でなければ、影人は自分からは決してその2人には関わらなかっただろう。そういった点から言って、影人の性格は全く変わっていない。むしろ、あの客観的に見ても中々にヤバイ性格はさっさと変わってくれと思うが、残念ながらあの前髪野朗の性格が今のところ変わるとは到底思えない。悲しい世界である。
では、なぜ穂乃影が影人の性格が変わったのかと推察したのかと言うと、それには過去の出来事が関わっている。穂乃影の兄である影人は、ある時期を境にその性格が変わったのだ。そして穂乃影はその理由を知らない。
そういった背景もあり、穂乃影はまた影人の性格が変わったのでないかと推察していた。実際は先ほども述べたように前髪の性格は全く変わっていないが、過去の背景、更には兄妹間のコミニュケーション不足も手伝い、穂乃影はその推察が正解であると半ば無意識に思っていた。
(・・・・・・別にあの人の性格がまた変わったとしていても、それは私には関係ないじゃない。むしろ、ああいう人たちと関わってるなら、性格もマシになってるんだろうし。・・・・・・・・・・だって言うのに、何で私はこんなに苛立ったり嫌な気持ちになってるんだろう・・・・・)
苛立ち、不安、そういった嫌な気持ちが穂乃影の内に渦巻く。影人に対して最近はそういった気持ちを抱くことすらなかったのに。
「・・・・・・・・・・・・私にそんな気持ち、抱く資格すらないのにな」
ポツリと肉声に出してそう呟く。そう、自分には影人に対してそんな気持ちを抱く資格はない。なぜなら――
「あら? 穂乃影じゃない。こんにちは、学校の帰り?」
穂乃影が俯きながら道を歩いていると、前方から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「・・・・・・シェルディアちゃん?」
聞き覚えのある少女の声に穂乃影は顔を上げた。すると、自分の前方に1人の外国人の少女が見えた。美しいブロンドの髪を緩くツインテールに結い、夏だというのに豪奢なゴシック服を着こなしたその人形のように可愛らしい少女は、自分の家の隣の部屋に住むシェルディアという少女であった。




