第470話 妹の疑念(5)
(も、もしかしたら、妹さんを介して帰城くんと仲良くなれるかもしれない・・・・・! いや、僕は何を考えているんだ! それじゃあ、帰城さんが帰城くんと仲良くなるための道具みたいじゃないか!?)
一方、光司の心の内はというとこのようなものだった。光司にしては珍しく人間の欲望と戦っている形である。まあ、その欲望ははっきりいってかなりしょうもないものだが。
「あのー、帰城さんのお兄さんのお話はすみませんけどまた後という形で大丈夫ですか? 自己紹介も終わった事なので、そろそろ明日の話し合いに入りたいんですけど・・・・・・」
まだ話が長引くと感じたのか、風音が3人に向かって申し訳なさそうにそう言った。今日ここに集まったのは、確かに親睦を深めるという顔合わせの一面も強いが、本来の目的は明日の研修に関する話し合いだ。ゆえに風音は多少強引ではあるが、その話を終わらせようとした。
「あ、すみません・・・・・」
「あなたが謝る必要はないわ。元はといえば、私が振った話なんだし」
「そうだよ。僕たちが自己紹介から脱線させた形にしてしまったんだから」
自分の兄の話題という事もあり穂乃影は風音に謝罪したが、そこは真夏と光司が穂乃影が謝罪する必要はないといった意味の言葉を述べた。
「では、各自の自己紹介も終わったところで明日の研修についての話し合いを始めたいと思います。まず光導姫の能力拡張の訓練に関しては、主に私とアイティレが教えます。帰城さんには、すみませんが私たちの補助を行う形になってもらうと思います。守護者の訓練に関しては、剱原さんと光司くんにお任せしたいと考えています。つきましては、訓練に必要な物などが有るならば、言ってもらえればこちらで用意します。後は――」
風音が明日の研修についての概要を述べていく。アイティレ、刀時、真夏、光司の4人は風音の言葉に耳を傾けている。当然、穂乃影も風音の話には耳を傾けているが、穂乃影は内心他の事に気を取られていたので、半ば話の内容は頭に入ってはいなかった。
(あの人・・・・・・・・いったい学校で何をやってるんだろう。榊原さんって人の反応は、ただの顔見知りって反応じゃなかったし、香乃宮さんってイケメンに関しては、なぜかあの人と友達になりたがってるし・・・・・・・・)
なぜ、なぜ、なぜ。影人の性格を知っている穂乃影からすれば、真夏や光司といった人物と影人が関わっているのは疑問以外の何者でもない。穂乃影は色々と影人に疑念を抱いていた。
(まさか・・・・・・・・また何か変わってしまったの? ・・・・・・・・影兄)
過去の事を思い出しながら、穂乃影は胸中でそう呟いた。今や、絶対に影人に対しては呼ばない過去の呼び方をしながら。
穂乃影の内心を表すように、外で燦然と輝く太陽が雲に隠れた。




