第466話 妹の疑念(1)
「それじゃあ全員揃ったことなので、顔合わせ、もとい明日の研修についての話を始めてもいいですか?」
風音がアイティレ、刀時、真夏、光司、そして穂乃影に視線を向けてそう聞いた。真夏と刀時は3年生で風音より年上なので、風音は語尾をそう変化させた。
「問題ないわよ。でも、あなたが音頭を取るっていうのは少し癪ね」
風音の言葉に同意しながらも、真夏は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「そうですか? なら、榊原さんが音頭を取っていただければ――」
「それじゃあ私が施しを受けたみたいじゃない。いいわ、やっぱりあなたに譲ってあげる。ふふっ、ライバルの施しは受けない。これぞ呪術師よ!」
風音が真夏にその役目を譲ろうとするが、真夏はそれを拒否した。そして高らかに笑った。勝手に自己完結して笑ったりと忙しい人物である。
「あ、そ、そうですか・・・・・・」
「・・・・・・・・ごめん連華寺さん。会長は相変わらず君をライバル視してるみたいだ」
真夏のその反応に、風音は苦笑いを浮かべるしかなかった。真夏と一緒にやって来た光司が、申し訳なさそうに風音にそう言ったが、光司の言葉を聞いた真夏は「む・・・・・」と高笑いを収めると、光司にこう言葉を述べた。
「ライバル視してるみたいじゃないわ、副会長。ライバルなのよ。風音は神社の生まれで『巫女』、私は呪術師の家系生まれの『呪術師』。分かるかしら? 祓う立場と呪う立場の私たちは決して相容れない存在なのよ。そりゃ、私だって風音には優しくしてあげたいわ。可愛い後輩だもの。でも、それは叶わないのよ! 因縁が、運命が私たちを引き裂くの! だから、私は風音にはあえてキツくあたるしかないのよ!」
熱く自論を展開する真夏。そんな真夏の言葉を聞いていた刀時は珍しく呆れたような表情になっていた。
「いや、意味わからんし・・・・・・・謎理論展開するとこも変わってないな榊原。俺、お前と違う学校でよかったってつくづく思うよ」
「喧嘩売ってんのかしらヒゲ男。そんなんだからモテないのよ」
「てめえ何で俺がモテないの知ってんだよ!?」
真夏の言葉にたまらず刀時はまたそう叫んだ。何だか先ほど見たような光景だが、恐らくこのやり取りが2人のやり取りなんだろうなと、観察していた穂乃影は思った。
(・・・・・・・・なんかこの榊原さんって人、どこかあの人に似てる気がする。主にその言動がだけど・・・・・というかこの人たちの制服、気のせいじゃなかったら・・・・・・・・・)
真夏に兄である影人の姿を軽く重ねた穂乃影は、違う学校から来た真夏と光司の制服に注目した。明らかに見覚えがある制服なのは、きっと気のせいではないはずだ。
「あんたがモテないのなんて見れば分かるわ。――悪かったわね風音。ヒゲにかまかけてたせいで、話し合い始められなくて」
「ヒゲ・・・・・・違う。俺が目指していたのはダンディさだ・・・・・・・・・断じてヒゲとかいう分かりやすいあだ名を付けられるために、ヒゲを生やしてるわけじゃない・・・・・・・・・」
叫んだ刀時にもう用はないのか、そっけなくそう答えた真夏は再び風音に話しかけた。そして真夏にヒゲ呼ばわりされた刀時は、ショックを受け首をガクリと落とした。どうやら同年代の女子にヒゲ呼ばわりされた事が、よほど残念だったようである。この男、やっぱりメンタルは豆腐かもしれない。




