第465話 競えよ乙女、顔合わせ(5)
「貴様のどこにダンディズムがある・・・・・・」
「・・・・・・・剱原さん、整えられたヒゲならまだしも無精髭にダンディさは感じられませんよ」
「あれ辛辣!?」
そしてキモい刀時は、アイティレと風音から容赦なくそう言われた。
「たはは、心折れそう・・・・・・・・・それはそうとして、後誰が来るんだっけ? 光司っちが来ることは覚えてんだけどさ」
女子たちから辛辣な言葉を浴びせられた刀時は一瞬凹んだような顔になったが、2秒経つとケロッとした顔に戻りそう質問した。メンタルが強いのか弱いのかよく分からない男である。
「後は榊原さん・・・・・・『呪術師』ですね。私、アイティレ、帰城さん、光司くん、榊原さんの5人が今日集まる人たちです」
「げっ、榊原かよ・・・・・・・まじかー、あの嵐みたいに元気な奴が来んのか。やべえ、帰りたくなって来た・・・・・・・・・」
(嵐みたいに元気な奴・・・・・?)
刀時の独り言を聞いた穂乃影は、内心そんな事を思い首を傾げた。どうやら、風音たちは『呪術師』と面識があるようだが、穂乃影は『呪術師』と面識がない。ゆえに「嵐みたいな奴」という刀時の言葉が、穂乃影には分からない。あと、少し気にもなった。嵐のように元気な奴とは、いったいどのような人物なのだろうか。
「・・・・・まあ、お前の言う事はわかる。『呪術師』の元気ぶりには、こちらが疲れてしまう事もあるからな」
刀時の言葉に同意するように、アイティレもそう呟いた。そして、そんな時だった。会議室の扉が勢いよく開けられたのは。
「はっはっはっ! お待たせ! ごめんなさいね、ちょっと道草食っちゃって!」
「会長! そんな勢いよく扉を開けたら、みんな驚いちゃいますよ・・・・・・!」
バンッと扉を開けて、1人の少女と少年が新たに会議室に入室してきた。恐らく、この中で誰よりも豪快に扉を開けたのは彼女だろう。
扇陣高校とは違う夏の制服に身を包んだ少女と少年がこちらに歩いて来た。
少女の方は溌剌といった言葉がピッタリの美少女だ。髪につけた紙の髪飾りが特徴的である。
少年の方は、一言で表すなら目も覚めるようなイケメンだ。標準より少し長い髪に整いすぎている顔立ち。おまけに身に纏う雰囲気は爽やかそのものだ。
「げっ、噂をすれば来やがった・・・・・・・・」
「あら剱原、随分とご挨拶じゃない。相変わらずシケた面してるわね!」
苦いような表情を浮かべそう言った刀時に、歩いてきた少女は明るくそう言った。言葉の内容とテンションが釣り合っていないのは、気のせいではないだろう。
「なっ、てめえ誰の面がシケてるって!? 撤回しろ! 俺の面はそこまでシケちゃいねえ!」
「シケてる面にシケてる言って何が悪いのよ」
少女の言葉にショックを受けた刀時がたまらずそう叫ぶ。しかし刀時の叫びなど、どこ吹く風といった様子で少女は言葉を放った。
「ひでえ!? 助けてくれよ光司っち! さっきから女子たちが俺をイジメるんだ!」
「つ、剱原さん? 大丈夫ですか・・・・・・?」
少女と一緒に会議室の前方にやって来た少年、香乃宮光司に刀時が泣きつくふりをする。そして誰にでも優しい光司は刀時にそう声を掛けた。
「久しぶりね、風音! 私のライバル! ここで会ったが100年目よ!」
「あはは・・・・・お久しぶりです榊原さん」
ビシっと風音に指を突きつけそう宣言した少女、榊原真夏に宣言を受けた本人である風音は、ただ苦笑いを浮かべていただけだった。
「・・・・・・相変わらずのようだな『呪術師』。嵐のようなとは、お前の為にあるような言葉だとつくづく思う」
「あなたも久しぶりね『提督』! お褒めに預かり光栄だわ! あなた日本に留学してるんでしょ? もうこっちには慣れた? というか日本語上手いわね! 意外だわ!」
アイティレに話しかけられた真夏は、明るい笑みを浮かべながらそう言った。なるほど、確かに彼女は元気に過ぎる。傍から真夏を見ていた穂乃影は先ほどの刀時の言葉の意味を理解した。
(・・・・・・・・・・というか、すっごく賑やかだ。しかも私以外は全員顔見知り確定だし。・・・・・・顔合わせ、やっぱりさっさと終わらないかな)
いきなり賑やかになった会議室の雰囲気に、穂乃影はそんな事を考えていた。




