第464話 競えよ乙女、顔合わせ(4)
そんな事を考えている間に、穂乃影は集合場所である扇陣高校2階の会議室の前に辿り着いていた。ここは例年通りなら、午前の研修が行われている場所だ。まあ、今は午後なので使われてはいないが。
「・・・・・・・失礼します」
コンコンコンとノックをして、穂乃影は会議室のドアを開けた。会議室に入ると、前方のスペースに2人の少女がいた。
「あ、こんにちは。えっとあなたは・・・・・ランキング75位の光導姫『影法師』で合っているかしら?」
その内の1人、ポニーテールの髪型の清涼感を感じさせる雰囲気を纏う少女がそう穂乃影に聞いてきた。その少女こそ、光導姫ランキング4位『巫女』でありこの扇陣高校の生徒会長、連華寺風音であった。
「・・・・・・・はい、それで合ってます。今日はよろしくお願いします生徒会長。・・・・・それと『提督』、フィルガラルガ先輩も」
2人のいる位置まで移動した穂乃影は、風音の問いかけに答えを返し、2人に軽く頭を下げた。
「ああ、よろしく頼む。先輩、と私を呼ぶという事は君は1年生か?」
もう1人の赤眼銀髪の留学生、『提督』ことアイティレ・フィルガラルガは穂乃影の挨拶の言葉を受け取ると、そんな事を聞いてきた。
「はい。1年の帰城といいます」
穂乃影はアイティレの問いに自分の学年と名字を明かした。そして穂乃影がそのまま立っていると、風音が「ああ、ごめんなさい。もうどこか近くの適当な席に掛けてもらってればいいから」と言ってくれたので、穂乃影はその言葉に甘えて近くにあった適当な席に腰を下ろした。
「もう少しだけ待ってちょうだいね、帰城さん。あと、3人ほど来てないから」
「分かりました」
手を合わせて苦笑を浮かべる風音に、穂乃影はコクリと頷きを返した。予定では顔合わせは3時からだが、穂乃影がスマホで時間を見てみると、現在は3時5分だった。まあ、あと10分以内に来れば許容の範囲内だろう。
「いやー、ごめんごめん。ちぃとばかし昼寝しててさ。遅れちゃったわ」
それから5分ほどすると、ガラガラと会議室の扉を開けて1人の青年が入室して来た。無精髭を生やした一見無気力そうな青年だ。穂乃影やアイティレ、風音と同じ扇陣高校の夏服に身を包んだ(といっても男性用という違いはあるが)その青年の名は、剱原刀時といった。
「こんにちは剱原さん。もう、お昼寝する時間なんてあるんですか? 剱原さんは3年生でしょう、今夏は進路を決定する重要な時期では?」
風音が刀時に少し意地悪っぽくそう言った。風音の軽口に刀時は「へへっ、ご心配ありがとうね」とへらりと笑みを浮かべた。
「でもご心配には及ばないよ。俺、実家のオンボロ道場継ぐし。だから気楽なもんさ――って、およ? 君は初めて見る顔だね。というか、すっげえ可愛いな・・・・・・・・こんな可愛い子ウチの高校にいたっけか?」
「・・・・・どうも。今日はよろしくお願いします」
風音に言葉を返し終えた刀時が、穂乃影に気がつきそう話しかけてきた。刀時に話しかけられた穂乃影は何度も名乗るのも面倒なので、座りながら軽く頭を下げただけだった。どうせ後でまた自己紹介をするだろうから、今はいいだろうと思ったのだ。
「相変わらずの軽薄ぶりだな、『侍』。それと、学校に来るなら髭くらい剃ってこい」
「あはは、しゃーないよそれが俺だし。あと髭は許して欲しいな。俺、ダンディを目指してるからさ」
ため息を吐いてそう言ってきたアイティレに、刀時は自分の無精髭を触りながらキメ顔を浮かべた。そしてそのキメ顔は、控えめに言ってもキモかった。




