第460話 心、燃えて(5)
「お先に失礼するよ・・・・・・!」
「ッ・・・・・どうやら、骨はあるようですね・・・・・!」
典子を抜く間際、陽華は先ほどのお返しとばかりにそう呟いた。陽華に抜かされた典子は、面白いといった感じに言葉を返す。
2人の速さは凄まじいもので、もはや残りの少年少女たちより1本分は多く周回していた。べべの暗葉とは2本分差がついている。
「売られた喧嘩は買う主義なの・・・・・・・・! 今日は負けないよ、双調院さん・・・・・!」
「いい気骨をお持ちで・・・・・・! 私も、あなたには負けませんよ、朝宮さん・・・・・・!」
2人はピタリと横並びにトップを走ると、バチバチと視線を飛ばし合いながら、そう宣言した。
ライバル出現、そんな言葉がピッタリな程に、2人は競い合った。
なお、このダッシュに体力を使いすぎて、2人とも後のメニューが死にそうになったのは、言うまでもない。
「――うーん、1週間と少しぶりに日本に帰って来たけど・・・・・・・やっぱり、この国の夏はクソ暑いなあ。昔はもっと、夏といっても涼しかったけど」
8月の灼熱の太陽を手で庇を作り見上げながら、上下灰色のジャージ姿の青年はそう呟いた。
糸目と呼ばれる程に細い目。ボサボサの髪。左肩には黒の細長いケースを背負っている。足元は今の季節にピッタリなサンダル姿である。
「ん? あれは近くの高校の女子学生か・・・・・うん、いいね。若くて可愛い子は、目の保養になるなあ。心が萌える」
ちょうど自分の10メートルほど先にいた女子高生の姿を見ながら、その青年は口元を緩めた。傍から見れば完全に不審者である。お巡りさんが近くにいたら秒で職質確定だ。
「確かあの制服は僕ん家の近くの高校だったな。名前は・・・・・・扇なんたら高校だったかな?」
不審者もとい青年はそんな事を呟きながら、自宅へと帰るべく歩き始めた。
「さてさて、帰ったら早速情報収集しないと。・・・・・・・・の前に、溜まってるアニメをちょっと・・・・・・いやいやダメだ。僕のことだ、絶対にダラダラしちまう。ここ100年くらいで、ぼかぁすっかり堕落しちまったからな。やっぱりちゃんと情報収集しよう」
のんびりとした口調で、ガリガリと自分の頭を掻きながら青年は自分にそう言い聞かせた。日本に戻ってきた目的を忘れてはいけない。
「その後は鍛錬だ。向こうで1週間くらい死ぬ気で基礎稽古したから、多少はマシになったけど、まだまだ酷い剣だからなあ。早く鉄くらいなら斬れるように戻りたいよ」
鍛錬場所に、自分の家の近くの森を思い浮かべながら、その青年――十闇第7の闇、『剣鬼』の響斬はそうぼやいた。




