第455話 研修2日目、会議決定(5)
「あ、あの・・・・・! 私はスプリガンを敵と決めつける事には反対です!」
会議室中の視線を一身に受け、その少女――朝宮陽華は自分の意見を言葉に乗せた。
「・・・・・・・・・あなたは?」
典子が視線を陽華に向け、そう問うた。陽華は真っ直ぐに典子の瞳を見つめ返すと、自分の名前を口に出した。
「私は朝宮陽華っていいます! その、私はスプリガンの事を敵だとは思っていません。ただ、すれ違いがあるだけだと思ってます!」
思いが勝手に溢れ出る。スプリガンは敵ではないと陽華はそう信じている。だから、スプリガンが敵であると多くの人間に思われるのは嫌だった。
それは、スプリガンに助けられた自分だから思っている事かもしれない。しかし、スプリガンと出会った事のない自分と同じ少年少女たちが、スプリガンに恐怖心や敵意を抱くのは、なんだかとても悲しいような気がしたのだ。
そういった思いを抱いているうちに、気がつけば陽華は立ち上がっていた。
「陽華・・・・・・」
今度は陽華の声が会議室に響いた。陽華の声を聞いた明夜は驚いたように隣の幼馴染を見る。陽華の姿を見た明夜は、自分も何かを決心したように立ち上がった。
「私もそう思います。一応名乗っておくと、私は月下明夜といいます。・・・・・実際、彼が敵であるはずならば、光導姫や守護者を助けた事に疑問が残ります。だから、彼を敵と決めつけるのは早計だと思います」
陽華と明夜が発言をした事により、会議室に数度目のざわめきが起こる。そんな中、陽華と明夜と同じように立ち上がっている典子が、2人に向かってこんな言葉を投げかけてきた。
「朝宮さん、月下さん。あなたたちの言葉に私は説得力を感じません。そもそも、スプリガン自体が敵対すると言ったという噂ではありませんか。ならば、彼は敵以外の何者でもないのではありませんか?」
「ッ! それは・・・・・!」
厳しい典子の言葉に陽華が反論しようとすると、今まで静観に徹していた孝子がパンパンと両手を叩いた。
「双方それまでとしてください。スプリガンが敵かという事は、現時点では答えの出ていない事です。彼が敵かどうかは、今夏中に行われる光導会議と守護会議で議論されることでしょう。ゆえに、いまその議論を行うことは不毛です」
「「「っ・・・・・・」」」
孝子の言葉を受けた陽華、明夜、典子の3人はどこか納得がいかなさそうな表情を浮かべた。
「・・・・・・・・・スプリガンの話については以上とします。3人とも着席してください。残りの時間は、予定していた講義を行います」
孝子はスプリガンについての話を終了させると、ホワイトボードに書いていた文字を消し始めた。
その後、宣言通り講義が行われたが、会議室の空気は明らかに昨日よりも重くなっていた。
「――いるか、風音」
「ん? どうしたのアイティレ私に何か用?」
会議室が微妙な空気になっている時、扇陣高校の生徒会室にアイティレが入室してきた。生徒会室で業務の息抜きに1人本を読んでいた風音は、アイティレの登場に少し驚いたようにそう言った。
「研修の手伝いは来週からよ?」
「そんなことは分かっている。今日私がここに来たのは――これのことだ」
扇陣の制服に身を包み、風音が座っている所まで歩いてきたアイティレは、スッと白い便箋を風音に見せた。
「! ああ、なるほど。確かにそれの事なら私しか同じ物をもらっている人は近くにはいないものね」
風音はアイティレの用を察すると、自分も同じように鞄からアイティレと同じ白い便箋を取り出した。
「私のところに届いたのは、ちょうど30分くらい前よ」
「同じくだ。中は見たか?」
「いや、まだ見れてないの。もう少ししたら見ようとは思ってたんだけど・・・・・・」
風音が少し申し訳なさそうな表情でそう言った。風音の答えを聞いたアイティレは「そうか」と言って、自分の便箋の中身を取り出した。
「私はもう見た。手紙に書かれていたのは、延期されていた今回の光導会議の日程が正式に決まったという事だった。っ、そうだった。ロシア語はお前は読めないんだったな。では、お前も気になっているであろう日程だけ先に教えよう。詳しい内容は、後で手紙を見てくれ」
アイティレはそう言って自分の手紙を仕舞い、風音にその日程を教えた。
「光導会議が開かれるのは今日から8日後――8月10日だ」
8月10日。その日が、スプリガンに今後どう対応するかを決める1つの運命の日になった。




