第453話 研修2日目、会議決定(3)
「・・・・・・ご協力感謝いたします。さて、双調院さん。スプリガンについての事ですね。いいでしょう。確かにいま現役で戦っているあなたたちには、スプリガンについての話こそが役立ちます。あなたの意見は、理論があり筋が通っている」
「お褒めのお言葉、ありがたくお受けいたします」
孝子に視線を向けられそう言われた典子は、流れるような動作で軽く頭を下げた。その所作は洗練されていた。やはり、双調院典子は育ちが良いらしい。
「それでは、本日はスプリガンについての話としましょう。といっても、彼について分かっている事はその見た目と力の性質くらいです。彼の事は、私たちはもちろん、ソレイユ様やラルバ様ですら分からない事だらけだそうです」
孝子はそう前置きして、スプリガンについての話を始めた。
「スプリガン。まず前提として、彼は確かに存在します。正体不明・目的不明の怪人として。このスプリガンという名は、彼が出現した際、光導姫と守護者に対してそう名乗るようです」
孝子が会議室に設置されている壇上の後ろのホワイトボードに、いま自分が話した事を書いていく。
「彼について分かっている事は、鍔の長い帽子、黒色の外套、深紅のネクタイ、紺のズボンに黒の編み上げブーツ、それに金色の瞳という外見。闇の力を扱い、最上位闇人やあのレイゼロールすら退却させた程の、凄まじい戦闘能力を有している点くらいです」
孝子が追加情報を話しながら、ホワイトボードに書き込みを続けていく。孝子の「最上位闇人やあのレイゼロールすら退却させた」という箇所を聞いたほとんどの少年少女たちは、思わず息を呑む。
「初めて彼が姿を現したと思われるのは、《《ある新人の光導姫たち》》と闇奴との戦闘です。ソレイユ様がその光導姫から聞いた話では、スプリガンは窮地に陥っていた彼女《《たち》》を助けたとの事です。その際、その光導姫たちに名を尋ねられ、彼はスプリガンと名乗った」
「「・・・・・・・」」
孝子が一瞬その視線を陽華と明夜の方に向ける。その孝子の視線とその口調から、陽華と明夜は理解した。孝子はその「ある新人の光導姫たち」が、陽華と明夜である事を知っていると。どのようにしてその光導姫が自分たちだと知ったのかまでは分からないが、孝子は知っている。それが純然たる事実だ。
「スプリガンという言葉じたいは皆さんも聞いた事があるかもしれません。よくゲームや漫画などにも出てきますからね。スプリガンというのは、一般的には妖精の事を言います。ただ、彼がなぜこのスプリガンという名前を名乗っているのかは、分かりません」
孝子がスプリガンという言葉の意味についての説明を行った。孝子の意味の説明を聞いた陽華と明夜は、驚いたようにその目を見開いた。実は、陽華と明夜はスプリガンという言葉に意味があること自体知らなかったのだ。ゆえに、スプリガンに「妖精」という意味がある事も2人には初耳だった。




