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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
450/2051

第450話 帰城穂乃影(4)

「じゃあ、影人。今日はありがとうね。あなたがいてくれて助かったわ」

「そうかい、ならよかったよ。キルベリアさんによろしく。じゃあまたな」

 午後7時を少し過ぎた頃。シェルディアの買い物に付き合っていた影人は、シェルディアの部屋の玄関に買い物の荷物を下ろし、そう言葉を返した。

「ふふっ、ええ。それじゃあまた」

 笑顔を浮かべ手を振ってくれるシェルディアに、こちらも軽く手を振った影人は、シェルディアの部屋の隣の帰城家へと帰宅した。

「ん? あいつの靴がねえな・・・・・・また不定期のバイトか」

 玄関に穂乃影の靴がない事を確認した影人は、無意識にそんな事を呟いていた。いつからか、穂乃影はそういった不定期なバイトを始めていた。その理由は少しでも家計を助けたいから、らしい。実際、穂乃影は家にそのバイトで稼いだお金を入れている。

(そういや、あいつが俺の事を「あなた」って他人行儀に呼ぶようになったのはいつからだっけか。確かあいつが中学2年辺りの時・・・・・のような気もするが、正確な時は覚えてねえんだよな)

 ふと穂乃影の事をについて考える。穂乃影はいつからか、影人の事を「あなた」と他人行儀に呼ぶようになった。別に影人はその事についてはあまり気にしてはいない。自分と穂乃影は1つしか歳が違わない。自分たちくらいの年頃はいわゆる思春期というやつだ。兄妹間が昔より希薄になったりする事は、むしろ自然だろう。影人も昔は穂乃影の事を名前で呼んでいたが、今は「妹」と呼んでいるし。

「・・・・・・・・・・・腹減ったな。飯はなんだろ」

 影人は穂乃影についての思考を適当に切り上げると、靴を脱いでリビングへと向かった。   













「・・・・・・・・・・全く、この仕事は金払いはいいけど、いつでもどこでもで不定期なのが本当に癪。私もお腹空いてるのに・・・・・」

 蒸し暑い夜の中を駆けながら、穂乃影はそんな文句を呟いた。自分がこの仕事を始めてから、およそ2〜3年経つが、この不定期ばりにはやはり中々慣れない。まあ、それはこの仕事の特性上仕方のない事なのだが。

「・・・・・・・・目標距離まであと200メートルくらいかな。今回の仕事もさっさと終わらせたいけど」

 脳内に浮かぶ地図のようなものを意識で確認しながら、穂乃影は駆ける。息切れはしていない。普段から学校の特別カリキュラムで鍛えられているからだ。

 それから2分後、住宅街の外れの地域に辿り着いた穂乃影はその仕事相手に遭遇した。

「キィキィキィ!」

 まあ、仕事相手といっても人間ではないのだが。

「・・・・・・・でかいネズミ。まあ、よかったかな。複合型でも獣人型でもない雑魚だし」

 人よりも巨大な姿をしたネズミ――闇奴を見つめながら、穂乃影は着替えていなかった夏制服のポケットから、ある物を取り出した。

 それは紺色の宝石が嵌められている指輪だった。穂乃影はその指輪を自分の右手の人差し指に装着した。

「・・・・・・・・変身」

 ポツリと無感情に穂乃影はそう呟いた。

 するとその指輪に嵌められていた紺色の宝石が眩い光を放った。その光が眩しかったのだろう。闇奴は「キィ!?」と鳴き声を上げ、その光から目を背けた。

「・・・・・・・・・」

 光が収まると、穂乃影の姿が変化していた。紺色と黒色を基調とするコスチュームだ。上は真夏だというのに長袖。だが、下は膝上くらいのスカート姿だ。少しアンバランスに感じる服装だが、これが穂乃影の戦闘装束だった。

「・・・・・・・さっさと終わらせる」

 穂乃影がこちらを睨んでくる闇奴に向かってそう呟くと、穂乃影の影から一振りの真っ黒な杖が這い出てきた。

「・・・・・・『影装えいそう』の1、『影杖えいじょう』」

「キィ!」

 闇奴が穂乃影の事を敵と認識したのか、こちらに向かってきた。穂乃影はそんな闇奴に淡々と使い慣れた杖を振るった。


 ――果たして、何の因果か。スプリガンとして光導姫・守護者たち光サイドと、レイゼロール率いる闇サイドに正体不明の怪人として暗躍を演じる、帰城影人。その妹である帰城穂乃影は光導姫であった。

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