第449話 帰城穂乃影(3)
「お前の学校の近くでか・・・・・・・」
穂乃影の答えを聞いた影人は少し考え込むような素振りでそう呟く。穂乃影の通う高校は扇陣高校。ソレイユから確たる名前を聞いたわけではないが、『提督』とすれ違った時に、『提督』が着ていた服は扇陣高校のものだった。ソレイユが言っていた『提督』の留学先は、日本の光導姫と守護者のための学校という証言から、穂乃影の通う扇陣高校こそが、その光導姫と守護者のための学校という事は、実質的に明確だ。
(鍛錬のこととかを考えるに、朝宮が扇陣高校の近くにいる事は別におかしな事じゃない。いや、そういやソレイユが8月から研修が始まるって言ってたな。研修場所は多分その特性から言って、扇陣高校だろうし・・・・・・まあ、どっちにしてもおかしい事はないな)
鍛錬にしろ研修にしろ、どっちにしても変わらない事に気づいた影人はそこで思考を完結させた。チラリと穂乃影の方を見てみると、穂乃影はスマホをいじっていた。
(・・・・・・・・・・・にしても、こいつと朝宮にまさか接点が生じるとはな。まあ一時的で顔見知りくらいの接点だろうが、それでも俺からしてみればちょっと嫌っつうか、危険な気がするが・・・・・)
影人が穂乃影を見つめながらそんな事を思っていると、スマホから視線を動かさずに穂乃影がこんな事を言ってきた。
「・・・・・・・でもやっぱり意外。あなたは他人には全く興味がない人間なのに、朝宮さんって人には興味を持ってる。それはまた何で?」
「興味って・・・・・別に持ってねえよ。お前の勘違いだ」
妹の指摘に内心ギクリとしながら、影人は穂乃影から視線を外した。確かに影人は陽華の事は色々と気にかけている。だが、それは自分の仕事に関係するからだ。そして、その事は誰にも言うつもりはなかった。
「ふーん・・・・・・一応忠告しとくけど、あんなに明るくて可愛い人と、あなたみたいに見た目が暗い人は不釣り合いだし合わない。叶わぬ思いだと思うけど」
「ざけんな、何で俺が朝宮の事を好きみたいになってんだ。そもそも、俺に恋愛なんてもんは不要だ。俺は孤独を愛する一匹狼なんだよ」
穂乃影の言葉を影人は食い気味に否定した。全くもって勘違いだし、いらぬ世話である。
「・・・・・・あなたの場合は群れから逸れただけだと思うけど。でも、本人がそれでいいと思ってるところがまた致命的」
影人の厨二チックな発言に、穂乃影は少し呆れた。そんな穂乃影の言葉を聞いた影人は、「はっ、孤独が人を強くするんだよ」といった少し的外な事を言ってきた。そういった話じゃないのだけれど、と穂乃影は声に出さずに思った。
「・・・・・・・それより、そろそろシェルディアちゃんのところに行かなくていいの? けっこう時間経ってるけど」
「げっ、もうこんな時間か。じゃあちょっくら行ってくるぜ妹よ。帰りは遅くなるかもって母さんに言っといてくれ」
穂乃影の指摘から、時計を見た影人は軽く身支度を整えると穂乃影に伝言を頼んだ。影人から伝言を頼まれた穂乃影は「ん・・・・・」と言って、影人のお願いを了承した。
「・・・・・・・・・行ってらっしゃい」
「おう」
ポツリとそう言葉を付け加えた穂乃影に、影人は少し笑みを浮かべて手を振った。




