第447話 帰城穂乃影(1)
「帰城穂乃影さん・・・・・・素敵なお名前ですね!」
「そ、そうですか? 別に普通の名前だと思いますけど」
陽華が穂乃影の名前を聞きそう褒めると、穂乃影は少し恥ずかしそうにそう言葉を返してきた。
「じゃあお兄さんは帰城くんって人なんですね! 今度また探してみよ! あ、すいません。お名前教えてもらって、ありがとうございました! 忙しないですけど、私もう行かなきゃ! それじゃあ、また!」
「あ、はい・・・・・・・・また」
陽華はそう言い残すと、手を振りながら校門の方へと走り去っていた。陽華の「また」という次回も会う、又は会える事を期待した言葉に、穂乃影も咄嗟に「また」という言葉を口に出してしまった。
「・・・・・・・すっごい明るい人、だったな。でも不快感とかそんなものは感じさせない明るさ・・・・・」
陽華の後ろ姿を遠目に見ながら、穂乃影はポツリとそんな事を呟いた。話したのは今が初めて。穂乃影は普通程度の社交性はあるとはいえ、ああいった明るくて口数の多いタイプは、はっきり言ってしまえば少し苦手だ。だが、陽華と名乗った今の少女に対しては、穂乃影はそういった意識を感じる事はなかった。
「不思議な人・・・・・・でもあの人は関わるタイプじゃないだろうし、たぶん知ってなさそう」
自分の兄、帰城影人のことをあの人と他人行儀に呼びながら、穂乃影も校門に向かって歩き始めた。今日は学校に本を借りに来ただけなので、後はこのまま帰るだけだ。
「ああ、暑っついな・・・・・・・そう言えば、私も来週辺りに研修の手伝いに呼ばれてるんだった。あの朝宮さんって人も研修に参加してるみたいだし、どっちにしても会う事になりそう。だから、『また』で合ってたのかな・・・・・・・・・?」
今日から行われている光導姫と守護者の研修。穂乃影は1週間後のその手伝いに呼ばれている。まあ、そこには日本最強の光導姫であり、この扇陣高校の生徒会長である光導姫ランキング4位の『巫女』、そして現在この扇陣高校に留学している光導姫ランキング3位の『提督』、守護者に至っては、ランキング3位の『侍』なども手伝いに呼ばれているらしいから、自分は補助に回る事になるだろうが。
しかも今年は色々と異例の年という事もあり、他校に在籍している光導姫ランキング10位『呪術師』、守護者ランキング10位の『騎士』も研修の手伝いに加わるという話だ。ならば、自分は手伝いに呼ばれなくても良いのではないかと穂乃影は思っていたのだが、手伝いに参加すれば扇陣高校からバイト代をもらえるという事だったので、穂乃影は自身の面倒くささよりも金を取った。ゆえに、研修の手伝いだが適当な補助仕事だったとしても、穂乃影に文句はない。
「・・・・・・・戦場に現れる謎の怪人スプリガン。とても強い、光導姫を助けた、光導姫と敵対してるとか、噂は色々あるけど、実際にそんな怪人本当にいるのかな・・・・・・・・・・・まあ、いたとしても私はどっちにしろ関わりたくないけど」
今年が異例の年と呼ばれている主な原因である、怪人の噂の事を思い出しながら、穂乃影はまだまだ燦然と輝く太陽の下、帰路に着いた。




