第442話 ある少女との出会い(2)
「し、しっかりして暗葉! まだ諦めないで!」
「そんな安らかな顔しちゃダメよ暗葉! 死ぬんじゃないんだから!」
倒れそうになった暗葉を支えながら、陽華と明夜が必死にそう言った。一連のその流れを見ていた火凛は、「いや、自分らなにコント始めとんねん・・・・・」と軽く呆れていた。
「――1つ、質問をしてよろしいでしょうか?」
するとそんな時、スッと右手を上げて1人の少女がそんな言葉を発した。
その場にいた全員の視線がその少女に向けられた。その少女は紫色のジャージに身を包んだ、ツインテールの髪型のお嬢様といった言葉がピッタリな少女であった。
「はい? 何でしょうか、ええと・・・・・・・」
気難しい顔をして質問の意思を見せて来たその少女に、海輝が対応する。しかし、今日初めて会ったその少女の名前を海輝は知らなかったので、言葉を詰まらせる。その事を察したのだろう、その少女は海輝に自分の名を告げた。
「双調院典子。それが、私の名前です」
育ちの良さが知れる上品な口調でその少女、双調院典子はその視線を海輝に向けた。
「わざわざありがとうございます。それで双調院さん、質問とはどのようなものでしょうか?」
海輝が変わらず柔和な笑みを浮かべ、典子にそう促す。海輝に促された典子は「では」と言って、こんな質問をした。
「体力作りをする意味とはいったい何なのでしょうか? 恐らくではありますが、この感じだと体力作りは生身で行われるご様子。そうであると仮定して、変身をする事で身体能力が比較的に向上する私たちにその行為は意味はあるのでしょうか? そしてよしんば効果があったとして、それは守護者の方や近距離前衛型の光導姫には意味があるのでしょう。しかし、遠距離後衛型の光導姫にはあまり意味があるようには思えません」
スラスラと淀みなく典子はそのような質問を海輝にぶつけた。典子の質問内容を聞いた少年少女たちの瞳に「確かに」といった感じの色が浮かぶ。そして、典子の質問に海輝はこう答えた。
「いい質問ですね、双調院さん。確かに、一見体力作りというものは無駄に思われるかもしれません。先に言っておくと、双調院さんの予想の通り、体力作りは生身で行ってもらいます。では、その理由についてお答えしましょう」
海輝は教師らしい口調で、こう言葉を続けた。
「実は光導姫と守護者の身体能力は生身の自分の肉体の能力が基礎になっています。光導姫・守護者形態は自分の身体能力が何十倍に増幅している状態というわけです。つまり、生身の身体能力がそのまま光導姫・守護者形態のベースになるわけですね」
生身で体力作りをする事によって、光導姫・守護者形態の体力も向上する。それは実質的に自身の強化に繋がるというわけだ。そして体力向上の恩恵は、近距離前衛型の光導姫と守護者だけでなく遠距離後衛型の光導姫も大いに得られる。
光導姫と守護者は、戦う存在。命の危険がある戦場では何が起こるか分からない。ゆえに、遠距離後衛型の光導姫といえども、近距離で戦わざるを得ない状況、体力が試される状況もあり得る。生身での体力作りは全ての光導姫と守護者にとってメリットとなる。それが昔からずっとこの研修が行われて来た理由だと、海輝は説明した。




