第440話 研修開始(5)
件の声を上げたその少女は、明夜の2つ横の席に座っていた。トレーにはカレーライスが乗っている。
その少女はたじたじといった感じでそう弁明した。小豆色のジャージを着たその少女は一言で言うと暗い印象を受けた。癖毛の気がある長い黒髪。長めの前髪。ジャージから覗く肌の色は白い。
「いや、別にそれはええねんで? ただ何が困るんかなーとウチは思っただけや。ジャージ着てウチらの会話理解してたってことは、あんたも光導姫なんやろ?」
火凛がその暗い雰囲気の少女に向かって首を傾げる。火凛の言葉を肯定するように、その少女は「う、うん・・・・・・」と頷くと軽く自己紹介を始めた。
「わ、私は四条暗葉・・・・・・い、家は埼玉の川越市にある。こ、今年の4月に光導姫になった・・・・・・・よ、よろしく。そ、それでその・・・・・み、見ての通り、私はちょ、超インドア派だから、体力が本当になくて・・・・・・・・・だ、だから、体を動かす系の研修だったら、と、とても嫌なの」
人と話すことがあまり得意ではないのか、暗葉はところどころ言葉を詰まらせながら言葉を紡ぐ。暗葉の話を聞いた3人はそれぞれ言葉を呟いた。
「なるほどなー。まあ、あんた見た感じやとまんま遠距離後衛型の光導姫やし、こう言っちゃなんやけど見るからに体力なさそうやもんなー」
「大丈夫だよ暗葉さん! きっと何とかなる! あ、私、朝宮陽華って言います! よろしく!」
「私は月下明夜。心配しないで、骨は拾うから」
「あ・・・・・・・わ、私、死ぬこと前提なんですね・・・・・・」
明夜の言葉を聞いた暗葉が、ポツリと言葉を漏らす。そんな暗葉の言葉を聞いた陽華は、明夜に厳しい目を向けた。
「ちょっと明夜! 言葉のチョイスが酷いよ! バカなんだから難しい言葉使わない! ごめんね暗葉さん。言葉の通り、明夜は見た目の割にバカなの。でも、今の言葉は悪意から言ってるわけじゃないから、許してあげてくれない?」
「誰がバカよ!? あ、その事については本当にごめんなさいね暗葉さん。陽華の言った通り悪意はないの」
2人のやり取りを聞いていた火凛は、「あはははっ! 自分らおもろいやっちゃな! ええボケとツッコミやったで!」とケラケラと笑っていた。
「い、いえ! む、むしろ私がごめんなさいです・・・・・・わ、私が話しかけてしまったばかりに・・・・・・・・め、迷惑でしたよね。こ、こんな暗い女に話しかけられて・・・・」
一方、2人から謝罪の言葉を受けた暗葉は逆に申し訳なさそうにそう言った。暗葉のその言葉を聞いた陽華と明夜はキョトンとした顔で顔を見合わせると互いに笑みを浮かべた。
「全然! むしろ話に入って来てくれて、嬉しかったですよ! せっかく研修で同期の光導姫の人がいるんだから、私たち色んな人と仲良くなりたいんです! だから、暗葉さんと仲良くなれたら私はもっと嬉しいです!」
「これだけ話し合えたのなら、それはもう友人と言っても大差ないわ。あ、嫌だったらごめんなさいだけど」
「そやで、細かい事はええやん。お互い光導姫っちゅう珍しいことやってる仲間や。気遣いなんかいらへんで!」
陽華と明夜、それに火凛も笑顔を浮かべながら暗葉に暖かな言葉を送った。3人の言葉を受けた暗葉は驚いたようにその目を見開いた。
「わ、私が友達? な、仲間・・・・・・・・そ、そう言ってくれるんですか・・・・・・?」
暗葉の声には嬉しそうな恥ずかしいような感情があった。四条暗葉という少女は、その引っ込み思案な性格から友達と呼べる存在がほとんどいなかった。だから、こんな会ってすぐに自分にそう言ってくれた3人の言葉は、本当は飛び跳ねてしまいそうな程に嬉しかった。
「「「当然!」」」
暗葉の問いに3人はなんの迷いもなくそう答えた。3人の答えを聞いた暗葉は、感動したように「あ、ありがとう・・・・・・!」と控えめながらも初めて笑顔を見せた。
「可愛い! 暗葉さん笑った方が可愛いよ!」
「ほんまやで。笑ったらあんたべっぴんさんやん! もっと笑っときな! 損やで!」
「そ、そうかな・・・・・?」
陽華と火凛が暗葉の笑顔を褒める。暗葉はその言葉が嬉しかったのだろう。控えめだった笑みを、はにかむような笑みに変えた。
「ふふふ、いいわねこういうの。じゃあみんな、午後の研修も、これからの研修も、みんなで頑張りましょう!」
「「おー!」」
「お、おー・・・・・・!」
明夜がそう言って右手を上げると、陽華と火凛も返事を返して右手を上げた。そして、2人に遅れるようにして暗葉も右手を上げた。
研修はまだ始まったばかり。だが、仲間たちとならきっと乗り切れる。4人の光導姫たちはそう信じて笑い合った。




