第436話 研修開始(1)
「――ついに今日からね、陽華」
「うん、明夜。ついに今日から研修が始まるね」
8月1日午前8時45分。明夜と陽華は扇陣高校の前にいた。
2人がなぜ夏休みであるのにも関わらず、こんな朝早くから他校の前にいるのかというと、それは今日からこの扇陣高校で、光導姫と守護者のための研修が開始されるからだ。
「期間は2週間。滅多な予定がない限りは、今年光導姫・守護者になった者は参加する事・・・・・・いったい、どんな事をやるのかな」
「さあ? そこら辺は風音さんとかに聞いてみても、上手くはぐらかされちゃったし。風音さんも教える側で研修に参加するからお楽しみって理由だったけど。それより、私は全国から集まった光導姫とか守護者の人の方が気になるわ。何だかんだ、同期の光導姫とか守護者に会った事ないもの」
「確かに・・・・・・・そうだね」
緊張とワクワクが入り混じったような顔を浮かべる陽華に対し、明夜はいつも通りの見た目はクールな感じであった。
「さーて、私たちの同期はどんな人たちなのかしらね。愉快な人もいれば、ちょっとは苦手な部類の人もいるでしょうけど」
「あはは、そうだね。色々な人と友達になりたいし、ちゃんと強くもなりたい。・・・・・・・あの人の強さに、少しでも追いつくためにも」
脳裏に黒衣の怪人――スプリガンの姿を思い浮かべる陽華。この研修を新たな糧として、陽華は、そして自分と同じ気持ちを抱いているであろう明夜も、スプリガンの強さに近づく。それが、陽華と明夜のこの研修に参加する最大の目的だ。
「ええ、やったりましょう。じゃあ行きましょうか陽華」
「うん! えへへ、何だかドキドキするなー!」
2人は研修に参加するべく、扇陣高校の門を潜った。
事前に陽華と明夜の元に届いた扇陣高校のパンフレットを模した研修連絡書には、午前9時に扇陣高校の2階の会議室に集合するようにと書かれていた。陽華と明夜は校内に置かれていた案内札の指示に従い、2階の会議室へと辿り着いた。
「失礼しまーす・・・・・・・」
「右に同じくー・・・・・・・」
陽華と明夜が会議室の扉を開ける。すると、そこには30人程の少年少女がバラバラにそこらに座っていた。
「うわー、けっこう多い・・・・・大体高校の1クラスくらいの人数って感じだね」
「そうね。というか、けっこう年にバラつきがあるような感じもするわ。まあ、今年光導姫と守護者になった人が研修の対象らしいから、そこらはそういうものなのね」
2人は空いている適当な席に着きながら、そんな事を話し合う。ちなみに、この会議室にいる少年少女の殆どはジャージ姿だった。そしてそれは、陽華と明夜も同じだ。その理由は、研修連絡書に「研修に参加する者は、動きやすい服装での参加をお願いします」と書かれていたからだろう。学生にとって、動きやすい服装といえば体操着でもあるジャージだ。
2人が席について2分ほどすると、会議室前方の壇上に1人の女性が姿を現した。パッとみた感じ、落ち着きのある上品な女性というイメージだ。歳の頃は、40くらいだろうか。
「――皆さん、おはようございます。本日は当校に来ていただき、また研修に参加してもらいありがとうございます。私は扇陣高校の校長の、神崎孝子と申します。以後、お見知りおきを」
黒色のドレススーツに身を包んだその女性――神崎孝子は口元を緩めて軽くお辞儀をした。




