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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
435/2051

第435話 前髪野朗とイケメンと(7)

「ふっははは! 寿司よ寿司! ひっさしぶりのお寿司だわー!」

「くっそぉ・・・・・・まさか2階があんなに物がなかったなんて。ああ、私の薄給が・・・・・・・・!」

 日が沈む一歩手前といった時間、倉の前で真夏が高笑いを上げ、対照的に紫織は悔しげな表情をしていた。

「・・・・・・・・まさかマジで終わるとはな。2階に物がなかったのが決め手だったな」

「そうだね。2階にあったよく分からないものは、会長が『研究材料にする!』って言って引き取られたし、埃掃除だけだったからね」

 真夏と紫織の様子、そして今の影人と光司の言葉からも分かる通り、賭けの軍配は真夏たちの方に上がった。その理由はいま影人たちが述べたように、倉の2階に物品が意外にもほとんどなかったからだ。

「じゃあお姉ちゃん! 約束通りお寿司奢ってね! 場所はいつもの回転寿司ね!」

「あーもう・・・・・・・・・分かったわよ! 奢ればいいんでしょ! こうなったら私も腹一杯食ってやるわ! 帰城、香乃宮! 行くぞ! 寿司屋はここから徒歩10分くらいの場所だ!」

 紫織がキレたようにというか、ヤケクソ気味にそう叫んだ。紫織が叫んだところなど見た事がなかった影人からしてみれば、紫織のその感情の発露は驚くものだった。

「分かりました。・・・・・・あのダウナー教師があんなに感情的になるとはな」

「確かに榊原先生の感情的な姿はとても珍しいね。僕もあんな先生は初めて見たかな」

 前を歩く紫織と真夏の背中を見ながら影人がそう呟くと、光司が自分と同じ感想を言葉に出した。自分の横を歩く光司に、影人は「けっ、独り言に話しかけて来るなよ」と悪態をつく。

「それより、坊っちゃまは勝手に夜飯なんて食いに行っていいのか? 俺はもう親に連絡したが」

「心配ありがとう。でも大丈夫だよ。僕もさっき家族に連絡したから。楽しんでこいって言われたよ」

 影人の皮肉を込めた問いに光司は笑顔を浮かべる。おそらく、光司も今の影人の問いかけが皮肉という事は分かっているのだろうが、それを受け止めた上で笑顔を浮かべるいる。全く、厄介な男だ。

(・・・・・・何をやってるんだろうな、俺は。本来なら香乃宮、そして昨日光導姫って事が判明した会長から、もっと距離を取らなきゃならないってのに)

 隣にいるのは守護者ランキング10位『騎士』、前を歩いているのは光導姫ランキング10位『呪術師』。真夏に関しては今日は仕方ないにせよ、影人はもっと2人から精神的な距離を取らなければならない。

(会長に関しては、もうしばらく関わらないだろう。問題は香乃宮だ。こいつは何度俺が突き放しても、俺に関わろうとする)

 チラリと前髪の下から光司を見てみると、光司は楽しげな表情をしている。どうやら、よっぽど4人で行く回転寿司が楽しみらしい。

(・・・・・・・・・ああ、面倒くさい。疲れた頭でごちゃごちゃ考えるのは嫌いなんだ。・・・・・・まあ、もういいか、今日だけは。俺も寿司食って帰って寝よう)

 ただでさえ今日の倉掃除は昨日より疲れたのだ。そんな疲労した肉体で考え事をしてしまうと、眠くなってしまう。だから、今日だけはもう何も言うまい。

「・・・・・・・いい日だな、今日は」

 蚊の鳴くような声でボソリと影人はそう呟いた。影人の呟きに反応したのか、光司が不思議そうな顔を影人の方に向けた。

「ん? 何か言ったかい帰城くん?」

「別に何も。ただ最悪な日だと思っただけだ」

 光司の言葉にそう答えを返した影人が、心の中では少し違う感想を抱いていた事を、光司が知る由はない。帰城影人は、香乃宮光司に対してはぶっきらぼう。それでいい。

 今日という夏の記憶が、影人の心へと刻みつけられた。

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