第434話 前髪野朗とイケメンと(6)
「お待たせ2人とも! じゃあ20分経ったから、掃除を再開しましょうか! 今日で何とか終わらせましょう!」
「・・・・・・・了解っす」
「そうですね。頑張って終わらせましょう会長」
真夏が気合を入れ直すためか、右手を天に掲げてそう言った。影人と光司は真夏の言葉に同意する。そんな2人に追従するように、紫織も「おー」とやる気のなさそうな声を上げた。
「ふっふっふっ、ここでさらにあなたたちの気合いをぶち上げるわ! 今日で奇跡的に掃除を終わらせられれば、夜飯はお姉ちゃんの奢りよ! 寿司行きましょう寿司!」
そして何を思ったのか、真夏は急にそんな宣言を行った。その宣言に1番驚いたのは、紫織であった。
「は!? おいちょっと待て真! 私はそんな事聞いてないぞ!? というか言ってもいない!」
紫織は普段のダウナーな様子からは想像も出来ないほど、慌てふためいていた。そんな紫織に真夏はふふんとした感じでこんな言葉を述べた。
「私の倉掃除の小遣いはなしでいいから。だからお姉ちゃん今日で倉掃除終わったらお願いね。なーに、これは賭けみたいなものよ。今日で2階も含めた倉掃除が終われば、お姉ちゃんがここにいるみんなにお寿司を奢る。終わらなかったら、私の倉掃除の小遣いはいらないわ。どう? 2階の様子は分からないけど、お姉ちゃんに有利な賭けだと思うの。当然、乗るでしょ?」
「ぐぬぬぬ・・・・・・・・いいわ、乗ってやろうじゃないのその賭け。後悔しないことね、真。私はあんたより断然賭けの経験が上よ。ちなみに、私はゆっくりとしか掃除しないけど、それはいいわよね?」
「ええ、いいわよ。じゃあ、賭け成立ね。帰城くん、副会長! そういう事になったから、今まで以上に本気で行くわよ! 寿司が私たちを待ってるわ!」
真夏がビシッと右の人差し指を影人と光司に向けてきた。真夏の唐突な寿司宣言からの一連の流れを見聞きしていた2人は呆気に取られていたが,真夏に鼓舞の言葉に2人はそれぞれの反応を示した。
「い、いや会長! そんないきなり・・・・・!」
「そ、そうですよ。そもそも先生に食べ物を奢ってもらうというのはちょっと・・・・・・・」
影人も光司も、少し引き気味な感じの言葉を述べた。そんな2人の様子に、真夏は少し不満げな表情になる。
「何よ? あなたたちお寿司が食べたくないの? そりゃあ副会長はお金持ちだから、寿司なんて食い飽きてるかもしれないわ。でも、帰城くん。あなたは本当にお寿司が食べたくないの? しかも奢りよ、普段は気にするお金の事を気にしなくて、他人の金で食い放題。こんなチャンスはそうそうないわよ?」
「ぐっ・・・・・・・・」
そう言われてしまえば、影人も心が動いてしまう。影人とて食べ盛りの高校生。しかも寿司を食いまくれるチャンスだと言われれば、はっきり言って燃えてくる。何だかんだ影人は寿司が好きだし、寿司は食いたいのだ。
「副会長もよ。確かにあなたはそんなにお寿司には惹かれないでしょうけど、帰城くんと一緒に夜飯を食べれるチャンスよ? あなた、彼と友達になりたいんでしょ? 想像してみなさい。学校とは違う場所、お寿司を食べてテンションが上がった彼は、そのままあなたとオールでカラオケに行くかもしれない。そうなれば、それはもはや友達よ!」
「な、なるほど・・・・・・・!」
光司に対してはそんな餌をぶら下げる真夏。そしてその光司はと言うと、見事に餌に食いついていた。
ちなみに光司の言葉を聞いた影人は、「いや、何がなるほどだよ」と心の中で突っ込んでいた。今の説明に納得する部分は確実になかった。
「そういうことよ! あなたたちも人間なら、欲望のまま動きなさい! さあ、返事は!?」
「・・・・・・・・・・はあー、分かりましたよ。全力でやりゃあいいんでしょう。俺も何だかんだ寿司は食いたいですし」
「ありがとうございます先輩。僕はチャンスを掴みます。という事で、今まで以上に頑張ろう帰城くん!」
「キラキラとした目を俺に向けるな・・・・・・言われなくてもやってやるさ。寿司のためにな」
「ようし! よく言ったわあなたたち! それじゃあ、やるわよ!」
2人の言葉を聞いた真夏は満足げに頷くと、右の拳を左の掌に叩きつけた。
こうして倉掃除は、寿司を賭けとした戦いへと変わった。




