第433話 前髪野朗とイケメンと(5)
「・・・・・・・何でお前がここにいる」
影人は今更ながら光司にそう問いかけた。最初に顔を合わせて以来、影人は光司と言葉を交わしていなかった。
「昨日会長に手伝ってくれないかってメッセージが来てね。先輩の力になれるのは嬉しかったし、予定もなかったから来たんだ。会長のメッセージに君の名前があったのには驚いたけど、せっかくだからと思って。そういう帰城くんこそ、何で倉掃除の手伝いを? 僕の勝手な偏見になってしまうけど、君はそういう手伝いはしない人間だと思っていたんだけど」
影人に話しかけられた事が嬉しい、というわけではないだろうが、光司は笑顔でそう言った。そしてちゃっかりと自分にそんな質問もしてきた。話しかけたのは影人だが、光司はどうやら話を続けたいようだ。
「・・・・・・別に。俺にも事情があるんだよ。じゃなきゃ、こんな面倒なこと休み潰してまでもやるかよ」
光司の問いかけに影人は吐き捨てるようにそう答えた。明らかな不機嫌な言葉。聞いていて気分の良くなる声音ではない。だが、なぜか光司は笑顔を浮かべたままだった。
「なるほど。どうやら僕の観察眼も捨てたようじゃないみたいだ。・・・・・・・・帰城くん。いきなりかもしれないけど、ありがとう。君のアドバイスは本当に役に立った。だから、ありがとう」
光司は表情を少し真剣なものにすると、影人の方に向かって頭を下げて来た。頭を下げて来た光司に、影人は顔を背ける。そして、変わらずぶっきらぼうな不機嫌そうな声で言葉を紡いだ。
「・・・・・・・ふん、どうでもいいな。あの時言っただろ、あの会話は夏の暑さが起こした一時の陽炎の夢。夢で言ったを寝言を、俺は一々覚えちゃいない」
「はははっ、君らしい言葉だね帰城くん。でも、例え君にとってあの言葉が寝言でも、僕が感謝することに変わりはないよ」
影人の中々厨二病っぽい言い回しに、光司は暖かく笑っただけだった。
「・・・・・・・本当に変わった奴だよお前は。俺みたいな奴に、まだそれだけ明るく話せるなんてな」
自分はスプリガン。光司は守護者。その事を知っている影人は、自分がボロを出さないようにするため、また光司に肩入れしすぎないためにも、光司に冷たく当たっている。
しかし、光司は何度影人が冷たい言葉を投げかけようとも、自分に対して不快そうな顔をする事はない。それが影人からしてみれば、不思議でしかない。
「君と話をするのは楽しいからね。君には2度断られたけど、僕はずっと君と友達になりたいと思ってる」
「言葉の距離が急に近いんだよ・・・・・・・・・お前、何か俺に対して吹っ切れてねえか?」
光司の3度目の友達になりたい発言に、影人は呆れからため息を吐いた。なぜこいつは自分などとそんなに友達になりたいのか。
「どうだろう。でも今こうして君と話してる間にも、君と友達になりたいって気持ちは強まっていってるんだ。だから、もしかしたらそんな気持ちが抑えられていないのかもね」
「知るかよ・・・・・・・あと、何度言われようが俺はお前と友人になる気はない。再三断るぜ」
「手厳しいね。これで3回目だ、君に振られたのは」
「言い方・・・・・・つーか、何で断られたのに嬉しそうなんだお前は・・・・・・・・・」
ニコニコ顔を崩さない光司に、影人はため息を吐く。今日何度目のため息だろうか。それもこれも、目の前のイケメン野朗のせいである。
それから10分ほど。影人が光司と仕方なく言葉を交わしていると、真夏と紫織が戻ってきた。真夏はガミガミと紫織に何か言っているが、紫織は真夏の言葉を聞き流している。そんな紫織に真夏が怒ると、紫織は少し慌てたように作り笑いを浮かべていた。全く、どっちが姉か分かったものではない。




