第432話 前髪野朗とイケメンと(4)
(帰城くんのアドバイスのおかげで、僕は朝宮さんと月下さんの力になれた。あの時、君がアドバイスをしてくれなかったら、僕は2人に対してあんな事はしてあげられなかった。だから、本当に僕は君に感謝しているんだ)
光司が偶然にも学食で影人と隣の席になった時、影人は悩んでいた光司にアドバイスをくれた。そのアドバイスのおかげで、光司はすぐに立ち直れたし、落ち込んでいた陽華と明夜に対して寄り添う意志を示す行動を取る事が出来た。事実、2人が喫茶店「しえら」に訪れた翌日、2人は元の2人に戻っていた。そして、光司は陽華と明夜からお礼の言葉を受けた。
(全部君のおかげだ。君のぶっきらぼうな優しさを僕は知ってる。僕は君に友人になる事を2度断られた。・・・・・・・・・・諦めが悪いのは分かってる。でも、それでも僕は、君と友人に――)
倉の物品を運んでいる影人を見つめる光司。本人にその自覚はなかったが、その視線は徐々に熱というか、感情を帯びたものになっていた。
「あー・・・・・・・香乃宮、帰城に熱い視線を送ってるとこ悪いが、私たちもそろそろ倉掃除に取り掛かるぞ。時間は貴重なんでな」
「っ! す、すいません榊原先生。あ、あと僕は別に帰城くんに熱い視線を送っては・・・・・・!」
ポンと光司の肩に手を置きながら、紫織がそう言った。紫織の指摘に驚いた光司は、否定するように首を横に振った。
「いや、かなり熱っぽい視線だったわよ副会長。自覚なかったのね・・・・・」
「ほれ、真もそう言ってるだろ。別に私はお前と帰城の仲はどうでもいいんだ。倉掃除がさっさと終わればそれでいい。だから、始めるぞ」
「ちょっとお姉ちゃん! そんな言い方は・・・・・・・って無視しないでよ!? ああ、もう! 副会長! 遅れちゃったけど、とりあえず私たちもやるわよ!」
面倒くさそうに光司の悩みをバッサリと捨て去った紫織は、倉へと向かった。そんな紫織を追いかけ、真夏も倉に向かって走って行く。
「あ・・・・・はい!」
真夏にそう声を掛けられた光司は、思考を切り替えると真夏の後を追った。
こうして、倉掃除の2日目が始まった。
「よーし、みんな休憩よ! 1階はあと1、2時間で終わりそう! やっぱり男手が増えると作業効率が違うわね!」
倉掃除を始めて3時間を少し過ぎた辺りで、真夏が休憩宣言を行った。真夏の言った通り、光司の参加はかなり助かり、1階の掃除は今日中には終わりそうであった。
「今日は暑いから、20分くらいしっかりと休みましょう! あ、お姉ちゃん! またタバコ吸いに行く気!? 昨日もやめるようにって――って、逃げるなこら!」
昨日のようにタバコを吸いに移動しようとしていた紫織を見て、真夏は怒ったように後を追いかけた。真夏に追いかけられた紫織は、早足から走りに逃げの手段を変えた。
「・・・・・・・・・・」
「ははっ、先輩と榊原先生は本当に仲が良いな」
そのため、倉前に残ったのは影人と光司だけになってしまった。




