第431話 前髪野朗とイケメンと(3)
「あら、副会長と帰城くんは知り合いだったの? なら自己紹介はいらなさそうね! それじゃあ早速掃除に取り掛かりましょうか!」
2人の様子からそんな事を察した真夏が、明るい声でそう言った。光司と紫織は、「はい、先輩」「はいよっと。ああ、今日も面倒だな・・・・・」と返事をしたが、影人だけは思ってもいなかった光司の登場に少しだけ放心していたため、返事が出来なかった。
「? どうしたの帰城くん? どこか体調でも悪い?」
そんな影人の事を心配したのだろう。真夏がそう聞いてきた。影人はその言葉にハッとすると、苦笑を浮かべた。
「ああ、すいません会長。ちょっと考え事をしてまして。体調の方は大丈夫です」
「そう? 気分が悪くなったらすぐ言うのよ。私は風洛の会長、生徒を守り気遣う義務があるんだから!」
「はい、ありがとうございます」
自分の心配をしてくれた真夏は、なぜか腕組みをしてドヤ顔を浮かべた。そんな真夏を見た影人は、「会長らしいな」と思い、つい笑ってしまった。
生徒会長という役職に、真夏が言ったような義務はないが、本人はおそらく本気で言っているのだろう。そんなところが会長らしいと影人は思い、笑ったのだ。
「へえ・・・・・・」
「っ・・・・なんだよ、香乃宮」
影人が笑みを浮かべていると、光司がニコニコとした感じで影人を見つめてきた。光司がいる事を思い出した影人は、口調をぶっきらぼうな感じにして光司に言葉を投げかける。
「いや、君はそういう風に笑うんだなって。よく考えてみれば、僕は君が笑ったところを見たことがなかったから」
「・・・・・・・・・・そうかい、まあお前の気のせいな気もするが。・・・・・会長、じゃあ倉掃除を始めましょうか。俺は昨日の続きの場所からでいいんですよね?」
光司の言葉に冷たい反応をした影人は、声音を切り替え真夏にそう確認を取った。光司と影人の一連のやり取りを聞いていた真夏は、少し呆気に取られていたようで、「え、ええ」と言葉を返しただけだった。
「分かりました」
真夏から確認を取った影人は、スタスタと既に空いていた倉の方に向かった。そんな影人の後ろ姿を見た真夏は、光司の方に顔を向けヒソヒソといった感じで光司に質問をした。
「ねえ、あなた。帰城くんとは仲が悪いの? 彼、あなたと話す時すっごくぶっきらぼうだったけど・・・・・・」
「いや、仲が悪いというよりは、単純に僕が帰城くんに嫌われていまして・・・・・・・・・一応、出来れば僕は彼と友人になりたいと思っているんですけどね・・・・・」
苦笑した感じで光司は真夏にそう答えた。昨日真夏からメッセージを送られて来て、影人が倉掃除に参加している事を知っていた光司は、今日という日を楽しみにしていた。もしかしたら、影人と仲が良くなれるかもしれないと淡い期待をしていたからだ。
だが、影人は今まで通り自分には冷たいままだった。そんな影人の反応ははっきりと言えば、少し悲しい。しかし、光司はめげるつもりはなかった。




