第430話 前髪野朗とイケメンと(2)
「おー、帰城。今日もよろしくな」
「こんにちは先生。分かってますよ」
昨日のように、坂の上の榊原家のインターホンを影人は鳴らした。中から通用門を開けてくれたのは、昨日と同じく紫織だった。
「おお、そうだ帰城。喜べ、真が倉掃除の助っ人呼んできてくれてな。しかも男手だ。うまく行けば予定通り明日で、さらに上手くいけば今日で面倒な掃除が終わるかもしれないぞ」
「助っ人ですか・・・・・・・? それは率直に言ってありがたいですけど・・・・・」
自転車を昨日と同じ門の近くに止め、影人は紫織と共に倉の方へと向かった。途中、紫織がそんな事を言ってきたので、影人は紫織の言葉にそう返す。男の助っ人が増えたのは影人からしてもありがたいが、いったい誰なのだろうか。真夏の伝手ということは、風洛高校の生徒の可能性が高いが。
「うん? ああ、帰城くん。こんにちは! 今日もよろしくね!」
「こんにちは会長。挨拶もそこそこですいませんが、今日は助っ人が来てると先生からお伺いしました。そちらの方はいったいどこに・・・・・?」
倉の前の縁側に座っていた真夏は、相変わらず元気いっぱいという感じで影人に微笑んできた。服装は、今日も制服姿だ。影人は真夏に表向きの丁寧な口調で挨拶をし、そんな質問をした。辺りを見た感じだと、紫織の言っていた助っ人の姿は見えない。
「ああ、今トイレを貸してあげてるとこなの。だからもう少ししたら戻ってくるわ。――あ、そんな事を言っている間に戻ってきたわね。おーい、副会長! さっき話してた帰城くんが来たわよー!」
「副会長・・・・・・・?」
真夏はそう言って廊下を歩いてくる人物に手を振った。榊原家の縁側は廊下と一体になっているタイプの縁側なので、真夏が座っているところは縁側でもあり廊下でもあるというわけだ。
一方、真夏の言葉を聞いた影人は嫌な予感がした。まだ影人は真夏が手を振った廊下の方を見ていないが、誰が歩いてきているのかは予想がついていた。真夏が副会長と呼ぶ人物は1人しかいない。
(嘘だろ・・・・・・・・)
恐る恐る、といった感じで影人はゆっくりとその方向を振り返った。そしてこちらに向かってきていたその人物も、影人が振り返ったと同時にちょうど真夏の横に辿り着いていた。
そこにいたのは目も覚めるようなイケメンの少年だ。着ている服こそ風洛高校のジャージだが、そんな姿でも彼には爽やかさというものがあった。
「・・・・・・・・・・香乃宮」
「やあ、帰城くん。今日はよろしく」
その誰もが認めるイケメン少年――香乃宮光司は笑顔で影人に挨拶をしてきた。




