第417話 生徒会長、現る(5)
「む? 私の事を知っているということはやはり風洛の生徒か。ならば諸々の理由を今は問わないわ。2分で身を整えるから少し待っていなさい!」
「あ、え・・・・・・・・?」
真夏は一瞬で目をシャッキリとさせてそう宣言すると、家の中へと走り去って行った。影人は真夏のその言葉にただただ戸惑うしかなかった。
「・・・・・・・悪いな帰城。お前も知っての通り、私の妹はああいう奴だ。まあ元気だけは有り余ってるし、小遣いやるって言ったら倉掃除を手伝うって秒で答えてくれたよ」
紫織が珍しく苦笑したような感じでそう言った。紫織のその言葉に影人も同意するように頷いた。
「まあ生徒会長の性格上そうでしょうね。ウチの名物コンビと並ぶ、名物生徒会長は元気と明るさと潑剌ぶりが凄いですから」
「それ全部同じ意味だろ。でも、お前の言葉がピッタリな奴だしな」
それから影人と紫織が少し話していると、真夏の宣言からきっかり2分後、ドタドタという音を響かせながら、再び縁側に真夏が登場した。
「待たせたわね! 真なる夏が私の名前、であるならば夏は私の季節。そう、私こそが風洛高校生徒会長、榊原真夏よ!」
なぜか風洛の制服を着て、妙な口上と共に自己紹介をした真夏。そんな真夏に紫織はため息を、影人は「あはは・・・・・」と力ない笑みを浮かべた。
「真、何でわざわざ制服に着替えて来たんだ。今からやるのは倉掃除だぞ・・・・・・・」
紫織が真夏の事を愛称で呼ぶ。学校ではそう呼んだ事を聞いた事がないので、プライベート用の愛称なのだろう。
「知ってるわよお姉ちゃん。でも、その子は風洛の生徒なんでしょ? なら生徒会長らしく制服でなければ示しがつかないってもんよ」
紫織のジトっとした視線になぜかドヤ顔でそう答える真夏。そして今更ながら、真夏は影人にこんな事を聞いてきた。
「で、あなたは誰かしら? 同学年にあなたみたいな前髪の長い男子はいなかったはずだし、1年生か2年生?」
「はい、榊原先生のクラスの2年の帰城影人です。今日は倉掃除に呼ばれまして。本日はよろしくお願いします、先輩」
一応真夏と話すのはこれが初めてなので、影人は他所行きの口調で軽く頭を下げた。ちなみに今の真夏と影人の発言からも分かる通り、真夏は3年生。影人の先輩にあたる人物だ。
「うんうん、礼儀正しい子ね。今日はよろしくね帰城くん!」
真夏はニカリと笑うと、「じゃあ靴履いてくるわ!」と再びどこかへと消えて行った。
「・・・・・・・・改めて思いますけど、嵐のような妹さんですね。いえ、別に悪い意味とかではなく」
「違いない。全く姉妹だっていうのに、性格は全然似てないのは何でかね。じゃあ帰城、真は玄関から来るから先に倉開けちまおうか」
紫織はジャージから古びた鍵を取り出すと倉の南京錠に鍵を差し込んだ。
ガラガラと倉の扉が開けられ、カビ臭いような埃っぽい空気が流出する。
「うわ・・・・・・これはまた中々ですね」
「だろ? 今からこれを掃除するんだ。本当、面倒だよな・・・・・・・・」
薄暗い倉の中を覗き込むと、中は様々なガラクタやら物やらが乱雑に積まれていて、はっきり言ってひどい有様であった。確かにこれは1日で終わる量ではない。
「やっぱり暑いわね。夏は私の季節だけど、この暑さは願い下げだわ」
紫織と影人が倉の中を見て辟易としていると、運動靴を履いて来た真夏が合流してきた。真夏も倉の中を見ると、「うーん、これ日曜で終わるかも怪しいわね」と首を傾げていた。
「と言ってもやらなきゃ始まらん。ほら真、小遣いのために頑張れ。帰城も自分のために頑張れよ」
「分かってるわよ。自分のため・・・・・・? いったいどういう意味なの帰城くん?」
「あはは、まあ色々ありまして・・・・・・・・生徒会長はあまりお気になさらないでください」
紫織の言葉に疑問を持ったのか、真夏が影人にそんな質問をしてきた。まさかカンニングをして弱みを握られているなどと正直には言えずに、影人は言葉を濁した。
「ふーん・・・・・・・・ま、いいわ。大方、お姉ちゃんに弱みを握られてるとかそんなところでしょう」
「チ、チガイマスヨ・・・・・・」
内心ギクリとした影人は真夏のあまりにも鋭い推察に片言でそう言った。えげつない推察力である。
「ほれ、いつまでも無駄口叩くなお前ら。私は出来るだけ早く楽したいんだ。ちゃっちゃっか始めるぞ」
「はいはいっと。じゃ、やりましょっか」
「ういっす」
真夏と影人は紫織の言葉にそれぞれ返事を返すと、倉の中に入った。
さあ、お掃除の始まりだ。




