第415話 生徒会長、現る(3)
ピンポーンという来訪者が来たことを知らせる音がセミの鳴き声と共に世界に響く。影人がしばらく待っていると、ガチャリと表門の横に設置されていた小さな扉が開いた。いわゆる通用門的な扉だろう。
「おおー、よく来たな帰城。歓迎するよ」
「労働力としてでしょうが・・・・・・」
扉から出てきた紫織がへらりとした笑みを浮かべた。服装は部屋着なのだろうか、くたびれたジャージ姿だった。
「それでも歓迎してる事には変わりないだろ。ほら、入れ。昼飯まだならそうめんくらい食わせてやるよ」
「食ってきたんで大丈夫っすよ。じゃあ、お邪魔します」
紫織の言葉に従い、影人は扉を潜った。扉を潜った先に見えたのは、立派な平屋の和風屋敷だった。
「・・・・・・・・・・こりゃまた立派な家ですね。というか、敷地面積かなり広くありません?」
家も立派なものだが、影人が驚いたのはその敷地の広さだった。いま影人と紫織が潜った門から家の玄関までの距離は、少なくとも8メートルはある。
「まあな、でも広いだけだよ。かなり古い家だから、ガタは来まくりだ。色々とリフォームしなきゃならんとこはあるんだが、面倒くさいんだよな」
影人の感想に紫織がそんな言葉を返した。確かに見た感じはかなり年季が入っている様子なので、そういった事はしなければならないんだろうなと影人はぼんやりと思った。
「お前に手伝ってもらう倉掃除をする倉はウチの裏手にあるから、ここからは見えん。だからとりあえず裏に回るぞ」
「・・・・・・・分かりましたよ」
相変わらず面倒くさそうというか、やる気も覇気も感じられないような口調で紫織はそう言葉を述べた。影人もそれに負けず劣らずといった感じの面倒くさそうな声音で返事をした。
「というか帰城。私が言うのもなんだが、お前私服のセンスは大丈夫か? 半袖短パンに風洛のジャージの上着って果てしなくダサいが」
影人の前を歩く紫織が、暇つぶしがてらかそんな事を言ってきた。
「別にいいじゃないですか。服装は個人の自由ですよ。というか、服は動きやすくて着れれば俺は何でもいいですし」
「確かにな。私もどっちかっていうとそっちの意見に賛成だ。服は動きやすくて楽なものに限る」
「じゃあわざわざそんな事言ってこないで下さいよ・・・・・・・・」
「ははは、気にするな。会話なんて適当なもんさ」
ため息を吐く影人に紫織はヘラヘラと笑った。面と向かって言うのは憚られるが、よく教師になれたなと影人は改めて思った。
「そういや今日平日ですけど、先生学校行かなくていいんですか。教師は夏休みでも仕事あるでしょう」
「まあな。今年はアホ共の補習とかいうクソめんどい仕事もあるが、私の補習授業は1限だし仕事も今日はそれ程溜まってなかった。だから今日は11時くらいで上がって来たんだよ。日曜までは休みだし、ちょうどいいから倉掃除しちまおうってわけさ」
「・・・・・・なんか意外っすね。先生面倒くさがりだから、倉掃除なんかで休み潰されたくないと思ってたんすけど」
影人は紫織のクラスなので、この担任教師が自分以上に面倒くさがり屋という事を知っている。ホームルームも基本は重要な告知事項がない限りは、30秒ほどで終わらせるような教師、それが榊原紫織だ。
そういった事もあり、影人は紫織が倉掃除などという面倒な事をしようと考えていた事にずっと違和感を持っていた。




