第414話 生徒会長、現る(2)
「・・・・・・確かに俺の髪は長い部類に入るが、それほど長くないだろ。まあ、前髪はかなり長い部類に入るが、それ以外は標準よりちょっと長いくらいだ」
そんなイヴの突然の問いかけに、影人は慣れたようにそう言葉を返した。確かに影人の前髪はかなり、いや顔の上半分を覆い隠す尋常ではない長さだが、その他の髪の長さはそれ程だ。襟足も首くらいまでしかない。
『誤魔化すなよ。俺が聞いてるのは理由だ。お前が髪を伸ばし始めた時期なんかは、お前の精神世界の記憶で確認できたが、理由はどこにも確認出来なかった。その事実が示すのはつまり――』
はぐらかすような影人の言葉に、イヴが少し不機嫌そうになる。イヴの言った精神世界の記憶とは、あの図書館のような建物にあるという、帰城影人という人間の今までの記憶の事だろう。
そして、イヴはそこからある推論を述べようとしたが、その推論を述べることは出来なかった。
「・・・・・・その言葉の先を言うのはやめとけ。《《あまり気分がよくなる話じゃない》》」
なぜなら、影人が暗く底冷えのするような声でイヴに警告したからだ。
『っ・・・・・・・・・・分かったよ。ったく、急にマジな声音になるなよ。融通の効かない野朗だな』
有無を言わせぬ圧力が影人の言葉にはあった。イヴは影人の言葉にしぶしぶ了承すると、嫌味を1つ付け加えた。
「悪いな、ついキツい言い方になっちまった。でもまあしばらくは、誰にも髪の理由を言うつもりはねえよ。謎の1つや2つあった方が魅力的だろ?」
声音を即座に通常のものに戻した影人は、フッと軽く笑みを浮かべた。相変わらず気色の悪い部類の笑みである。
『けっ、なーにが魅力だ。お前みたいな奴に魅力なんてあるわけねえだろ。自惚れ屋が』
「吐き捨てるように言うなよ・・・・・・マジみたいじゃねえか」
イヴのその言葉に若干傷ついた影人は、少し悲しそうにそう呟いたのだった。
「榊原・・・・・・・・よし、ここで合ってるな」
坂を登り終えた影人は、木彫りの表札に目を向けながら軽く頷いた。
「にしても・・・・・・えらく立派な門だな。こりゃ中もかなり広そうだ」
目の前にある和式の門に視線を移しながら,影人はそう呟く。ぱっと見は大名屋敷を思わせるような表門だ。
「このインターホン押したら強制労働・・・・・・・はあー、本当に押したくねえが覚悟決めるか」
この後に及んでまだブツブツと嫌そうに言葉を紡ぐ前髪は、特大のため息を1つ吐くとインターホンのボタンを押した。




