第412話 夏だ、補習だ、クソッタレ2(5)
まあ、影人と紫織以外にも1人助っ人はいるから、上手くいけば2日で終われるかもしれないと言っていたが、それでも2日は拘束されることが確定している。夏休みの2日は貴重であるというのに。
そんなわけで、影人は倉掃除の日までは夏休みをとりあえず満喫しようと決めていた。元々、影人は1人が好きな人間だ。今日はゲームをやりまくる日だが、明日は1人で本屋を巡ろうと決めている。
「ふへへ、1人最高だぜ。頼むから暁理からの急な連絡とかスプリガンの仕事やらは来てくれるなよ・・・・・・・」
気色悪い笑い声をあげながら、影人は心の底から邪魔が入らない事を祈りつつ、オンラインの対戦相手とのゲームを始めた。
こんなのが主人公である。悲しむべし、悲しむべし。
「俺の歌を聞けーーーーーーーーー!」
「ふー! いいぞB! お前の魂の叫びを聞かせてくれーーーー!」
「行けよ友よッ! 目指すは100点だ!」
「てっぺんだ! てっぺんしか見えないぜ!」
「バ○ラの兄貴ーーーー!」
「やっはーーーーーーーーーーー!」
カラオケのとある一室。完全にテンションのタガが外れたアホ共は、それはそれは盛り上がっていた。世紀末テンションである。絶対そのうちヒャッハーとか言い出しそうだ。
今はBがテンションのまま、その上手くもなければ下手でもない歌声を披露しているところだ。A、C、D、E、Fの5人はそんなBをひたすらに盛り上げていた。
「奪えッ! 全てッ! この手でッ!」
Bがとあるアニソンを熱唱し始める。そう男の義務教育の1つである、あのアニメのオープニングだ。大胆に魂に火をつけるんだよ!
「ふぅ・・・・・・満足したぜ。ほれ、次はどいつが歌うんだ?」
どこかスッキリとした顔でBがそう言った。心の底から熱唱したので、ストレスが解消されたのだ。
「次は俺だぜ! ふふふっ! 見てろよ聞いてろよお前ら! 俺が歌うのはもちろんジャストコミニ◯ケーションだ!」
次の曲を予約していたFが嬉々とした様子で、Bからマイクをもぎ取った。
「いいぞF! ファンの歌唱力を見せてくれー!」
「お前を殺す!」
「強者なんてどこにもいないぜ! 人類全体が弱者なんだ!」
「俺が正義だ!」
「今わかったぜ! 宇宙の心はお前だったんだよ!」
Fの選曲に完全にとあるロボットアニメWを見ていたであろう残りのアホ共が、そのアニメ中のセリフを言いながら盛り上げを図る。1人だけ殺人宣言してる奴いるくね? と思われるかもしれないが、このセリフはれっきとした第1話の主人公のセリフである。改めて見てもヤバイセリフである。
「テテンテテンテテンテテン!」
イントロの部分から擬音を使って、なぜかヘッドバンキングをし始めるF。どうやら気分が最高潮に達したようだ。アホのテンションが限界突破とかむしろ恐怖を抱くわ。
「ジャストワイルドビートコミニュケーション!」
Fは中々の歌声で歌を歌い始めた。ついでに首はずっと揺れたままである。良い子のみんなは首を痛める可能性があるので、激しすぎるヘドバンはやめようね。
「うはははっ! 楽しいな! しばらくずっと補習だが、お前らと一緒なら楽しくやっていけそうだぜ!」
Fが熱唱する中、Aが心の底からの笑顔を浮かべながらそんな事を言った。Aの言葉に同意するように、残りの4人も楽しくて仕方ないといった感じの笑顔を浮かべた。
「ははははっ! 俺もだ! こんなに気の合う奴らがいたなんてな! 1年の頃から出会いたかったぜ!」
「違いない! 今年の夏休みは楽しくなるぜ!」
「さあさあさあ! もっと騒ごうぜ! ここは防音だから人様に迷惑はかからねえ!」
「飲めや歌えや! 酒はまだ飲めねえが、若いテンションに酒はいらん! 素面でも俺らは最強じゃーー!」
B、C、D、Eがクスリでもキメてんのかといったテンションでそう言った。そして気がつけば4人は肩を組んでいた。
「AもFも来いよ! 一緒に肩組んで校歌でも歌おうぜ!」
「お! いいな! Fも一旦歌中止して歌おうや! その曲はまた後でも歌えるしよ!」
「ったくしゃーねえな! マイクはちょっと置いとくぜ!」
Bの呼びかけにAとFは嬉しそうにそう返し、BとEの横に加わり肩を組んだ。端からA、B、C、D、E、Fの順番だ。
「音頭は俺が取るぜ! 呼吸を合わせろ! せーの!」
端のAがリズムを作り始める。Aの呼吸に残りの5人も合わせた。
「「「「「「緑濃い都の端のー!」」」」」」
夏の狂騒は風物詩。もちろん人に迷惑のかからない範囲のだが。
世界には戦いや闘争が絶えないが、今この瞬間この場所だけは間違いなく平和だった。
6人の若者は輝かんばかりの笑顔で歌いながら、青春を謳歌していた。




