第41話 邂逅せし光導姫たち(3)
「何、あれ・・・・・・?」
闇奴化していた人間の浄化を終えた陽華たちは変身を解いて、学校に戻ろうとしていた。しかし変身を解こうとする直前、何かがこちらに迫ってくるのを明夜は見た。
「兎・・・・・・?」
明夜と同じくこちらに迫ってくる巨大な生物の姿を見て、陽華がそんな感想を漏らした。だが、兎があんなに巨大なはずがない。
すると光司が何かに気づいたようにその整った顔を険しくする。一度、仕舞っていた剣を再び構え、陽華と明夜に忠告した。
「ッ! 2人とも気をつけてくれ! あれはおそらく闇奴だ!」
「「えぇ!?」」
光司のその言葉に2人は驚きの声を上げる。
そして真っ直ぐにこちらに向かってくる兎型の闇奴はよく見ると、所々に傷を負っていた。まるで今まで何かと戦い、その何かから逃げてきたような有様だ。
「っ!? 人・・・・・?」
一方、闇奴を追っていた暁理は少し先に3人の少年少女がいることに気がついた。光導姫の結界はその光導姫を中心として展開されるため、光導姫が移動すると結界も移動するという仕組みになっている。そのため、人払いの結界が機能し今まで追っている道中、人とは接触しなかった。
しかし、なぜか人がいるという状況に暁理は混乱した。その混乱が原因で暁理はその特徴的なコスチュームを見ても、その3人が自分の同業者だと気づけなかった。
「ごめん! 今すぐ逃げてくれッ!!」
暁理が大声で3人にそう告げる。そうしている間にも暁理から必死に逃げる闇奴は、段々と3人に近づいていく。
「キュー!」
闇奴もそのあまりの焦りからか、正面の3人には気がついていないようだ。このまま行けば激突は免れないだろう。
「行かせないッ!」
正面から恐ろしい速度で向かってくる闇奴の正面に光司が立ち塞がる。その光景を見た陽華と明夜もお互いの顔を見合わせると、自分たちがすべき行動を悟る。
「香乃宮くん! 私たちも手伝うよ!」
「バックアップは任せてッ!」
陽華は光司の横に並び、兎型の闇奴を待ち構える。明夜は後方で杖を構えながら何かのタイミングを窺っている。
「ありがとう2人とも!」
光司は2人が自分のしようとしていたことを察して、手助けしてくれたことに感謝した。
しかし、そんな3人の動きを見て戸惑いを覚えたのは闇奴を追っていた暁理だった。暁理は全く逃げようともせず、それどころか闇奴の正面に立ち塞がる2人とその後方にいる1人に苛立ちと焦りの混じった声でこう言った。
「何してる!? 逃げろと言っただろ!」
だが、そんな暁理の忠告もはかなく闇奴は陽華と光司に激突した。
「キュ!?」
闇奴は激突してようやく人がいたのに気がついたのかそんな声を発した。そして正面から闇奴の突進を受け止めた陽華と光司はその衝撃に苦悶の声を漏らす。
「ぐっ・・・・・!?」
特にフェリートとの戦いで肋骨にヒビが入っていた光司は、その衝撃で負傷した箇所に激痛が走り顔を歪める。だが意地と気合いでその痛みを我慢する。
凄まじい速度だった闇奴を2人で止めることは敵わず、陽華と光司は地面に靴でえぐれた後を作りつつも、後ろに押し込まれる。だが、もちろん当初のような速さではなくなった。
その隙を突いて、後方に控えていた明夜が闇奴を束縛する魔法を放つ。
「氷の蔓よ!」
明夜の声に呼応するかのように、地面から氷の蔓が何本も伸び今なお突進を続ける闇奴に襲いかかる。
「キュ、キュー!?」
闇奴は驚いたような鳴き声を上げるがもう遅い、氷の蔓は闇奴の全身に絡みつき、その動きを制限する。
そして闇奴は完全に停止した。そのことを確認した陽華と光司はいったん明夜のいる後方まで跳び、迎撃の準備をしようとする。
「っ!? 同業だったのか!」
3人が光導姫と守護者だと気づいた暁理はフードの下の目を見開く。まさか闇奴が逃げた先に光導姫と守護者がいるとは夢にも思わなかった暁理だ。
しかし、瞬時に動きを止めた闇奴を見てこの瞬間をチャンスと悟る。
「ちょっと乱暴だけどッ!」
そう言って、暁理は強く地面を蹴った。
「「え?」」
空を舞った淡いエメラルドグリーンのフードの人物に陽華と明夜は驚きの表情を浮かべる。2人はこの巨大な兎を追っていた人物がいることは忠告の声から分かっていたが、その人物が光導姫だとは分かっていなかった。
光司だけは追跡者が光導姫だと分かっていたのか、真剣な表情でアカツキを見つめていた。
光導姫の身体能力を生かしたジャンプにより、アカツキは一瞬の滞空のなか右手に持っていた剣を両手で持ち、剣先を闇奴に向ける。
「風よ! 我が剣に宿れっ!」
アカツキの剣に風が渦巻き、その壮麗な剣に風を纏う。そしてアカツキはその剣を身動きの取れない闇奴の背に突き刺した。
「風烈一刺!」
「キューーーーーーーーーーーーー!?」
断末魔の悲鳴を残し、アカツキを手こずらせた闇奴は光に包まれ浄化されていく。
闇奴の巨体が全て光の粒子に変わり、アカツキは軽やかに地面に着地する。粒子の中から現れたまだ中学生ほどの少年をアカツキはそっと支える。
「まだ子供じゃないか。全く、どんな闇を抱えていたのか・・・・・」
ポツリとそんなことを呟き、アカツキはその少年を地面に横たえる。
アカツキはくるりと振り返ると、自分を見つめている3人に笑みを浮かべて感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、君たちのおかげで彼を浄化することができたよ。まずは心からの感謝を」
綺麗に腰を折って自分たちに感謝するアカツキに陽華と明夜は慌てたように手を振った。
「い、いえ! 私は別にただ体当たりしただけですし!」
「私も特に大したことは・・・・・」
あたふたする2人とは別に光司は、至極落ち着いた様子で自己紹介を始めた。
「2人ともそんなに謙遜しないで、感謝は素直に受け取るものだよ。――守護者ランキング10位、守護者名、騎士です。初めまして」
2人にそんなアドバイスをしつつ、光司はニッコリといつもの爽やかな笑顔を浮かべ、手を差し伸べる。どうやら握手を求めているようだ。
「いやいやご丁寧にどうも。僕は――って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」




