第405話 夏だ、補習だ、クソッタレ1(4)
「とりあえず恨み言からだな。いいか、アホ共。お前たちのせいで私は仕事が増えた。端的に言って死ね」
紫織は目を細め機嫌が悪そうにそう言った。そもそも教師という仕事はただでさえ仕事量が多く、給料と釣り合っていないというのに、余計で面倒な仕事を増やされればそうも言いたくなるというものだ。そして紫織は、本当に端的に自分が思っている事を言った。悪い言葉だが、便利な言葉である。
「あ、はい・・・・・・マジですんませんでした」
「本当にすいません・・・・・・」
「先生の言い分はごもっともです・・・・・・」
「申し開きもないです・・・・・・」
「実はメチャクチャ後悔してます・・・・・・」
「僕は死にましぇん! ・・・・・あ、本当にごめんなさいっす。もうふざけないんで、その殺人的な視線と今にも投げようとしてる教科書どうにかしていただけませんか?」
流石に「教師がそんな言葉を使うのはどうなんだ!」的な声は上がらなかった。まあ当然だ。紫織の恨みはもっともで、きっと自分たちも逆の立場なら間違いなくそう思うだろう。
「・・・・・・・・・・はあー、お前ら本当やるなら上手くやれよ。バレなきゃカンニングじゃないんだからさ。詰めが甘いんだよ」
「「「「「「え、ええー・・・・・・・」」」」」」
どこかズレた、というかほとんどアウトな言葉を呟いた紫織に、今度はさすがのアホ共もそんな言葉を漏らした。論点は間違いなくそこではない。
「とりあえず、私の恨み言はこれくらいにしておいてやる。他の教科の教師共も恨み言を言うかもしれんが、そこは仕方なく聞いといてやれよ。それじゃあ、補習の説明だ」
紫織はガリガリと頭を掻くと、補習についての説明を始めた。と言っても、だいたい事務的なものだ。補習の授業を受けて最後の試験を突破すれば、前期の単位を認定する。ただそれだけである。
「つーわけだ。分かったなら死ぬ気で授業受けろよ。じゃなきゃ留年だ。以上で説明終わり。それじゃあ面倒だが授業始めるぞー。教科書はあるな? 後、前に授業プリントあるから各自取りに来い」
「「「「「「はーい」」」」」」
6人は了承の返事を返すと、紫織のいる教卓に足を運んだ。
こうして補習授業は始まった。
「――午前の補習は終わりです。アホ共・・・・・・もとい皆さんはお昼休みです」
2限目の数学の教師がどこか疲れたような顔でそう告げた。軽くボロを出してしまったようだが、それは仕方ないだろう。教師は先ほどの授業でそれはそれは疲れてしまったのだ。
なぜならば、目の前のアホ共がアホな答えを連発したからである。




