第401話 今はまだ(6)
「さて、まずは素振りからかな。いや、その前に肉体作りからか? ・・・・・・ん?」
地下に向かいながら、響斬はまず何から始めるべきかを考えていた。
すると、響斬の前方に1人の人物が暗闇から現れた。
「よう、響斬。さっきぶりだな」
「・・・・・・・・やあ、冥くん。さっきはどうも。君の拳はすっごく効いたぜ?」
その人物、冥に軽く嫌味を言いながら響斬は軽く笑みを浮かべた。そんな響斬に冥はこう言葉を返す。
「当たり前だ、なんせ俺の拳だからな。まあ、それはいいじゃねえか。レイゼロールに治してもらっただろ?」
「そういう問題じゃ――ん? その口ぶりからすると・・・・・・君、話を暗闇で盗み聞きしてたね?」
冥の口ぶりから響斬はその事を察した。自分の頬の腫れなどが引いているのは、ある程度は推理できるだろう。今いる闇人で治癒の力を使えるのはレイゼロールだけだからだ。だから、響斬が冥が話を聞いていたと思った理由は、その見て聞いていたかのような口調からだった。
「まあな。レイゼロールはたぶん気づいてたが、どうでもいいからって俺をほっといたんだろうぜ」
悪びれない感じで、冥はあっさりとその事を認めた。今の響斬は自分の気配を感じ取れないだろうという事は、響斬の弱体化から大体分かっていたからだ。
「やっぱりか・・・・・・それで冥くん、僕に何か用かい? 話を聞いていたなら分かってると思うんだど、今からぼかぁ鍛錬するんだ。今は1分1秒でも惜しくてね。時間はあまりないんだ」
責めるでもなく、響斬は逆に申し訳ないような口調で冥にそう言葉を述べた。先ほどは軽く嫌味を言ったが、あれは軽い冗談のようなものだ。響斬は冥に殴り飛ばされた事を恨んではいない。
「知ってるよ。さっきの独り言から察するに、基礎から鍛え直すんだろ?」
「ああ、そうさ」
冥の確認の言葉に響斬は素直に頷いた。すると冥はどこか嬉しそうな表情でこんな事を言った。
「なら、しばらくは俺は必要ねえだろうが、また程度を試したくなったら俺を呼べ。軽い対戦相手と調整相手になってやる。お前がまた強くなるためなら、俺も協力してやるよ」
「冥くん・・・・・・」
冥の申し出を聞いた響斬は、胸の内から嬉しさが込み上げてきたのを感じた。
「ぼかぁいい仲間を持ったよ、本当にね。こんな僕を見捨てない人たちが、ここにはいる」
しんみりとそんな事を呟いた響斬に、冥は変なものを見るような目を向けた。
「けっ、なに気色の悪いこと言ってやがる。おら、さっさと地下行くぞ。1週間しかこっちいないんだろ? 暇だから見学しといてやる」
「色々と台無しじゃないか・・・・・・はあ、そういうとこも冥くんらしいけどね」
「知るか。俺は俺だ」
「ははっ、そうだね。確かに君は君だ」
そんな事を言い合いながら、2人の最上位闇人は再び修練場へと足を運んだ。
――今はまだ。熾烈極まる戦いが生じるのは、もう少し先になりそうだ。




