第400話 今はまだ(5)
「・・・・・・・・・・・・そうだな。どちらにせよ、今のお前ははっきり言って戦力にはなりえない。スプリガンと邂逅しても、今のお前では勝てないだろう。ならば、お前1人がいなくとも今は変わりないか」
「ッ・・・・・・はい、そういう事です」
はっきりと戦力にならないとレイゼロールから言われたのには、少し胸の内が痛んだ。だがその痛みを感じる事が出来て、響斬はよかったと感じた。
この痛みが自分を強くする、響斬はその事を知っているからだ。
「・・・・・・・・・・分かった。お前の願いは全て了承しよう。封印は解かない、1週間の滞在の後に日本に戻る事も許す。これでいいか?」
「はい、ありがとうございます。もう1度、こんな僕を信じてくださって」
「・・・・・・・・・・・・別に信じたわけではない。我はただお前がどういう人物かを知っているだけだ」
嬉しそうに笑う響斬の言葉に、プイと顔を背けながらレイゼロールはそう言った。その仕草を見た響斬は内心「可愛いなぁ」と不敬ながら思った。まあ、言葉に出せば今度は間違いなく怒られるので、声には出さなかったが。
「だが、次はないぞ。その事はよく肝に銘じておけ」
「わかってますよ」
凍えるような声音でそう付け加えてきたレイゼロールに、響斬は当然だとばかりに頷いた。
「・・・・・・・・我の行動はしばらくは変わらない。探し物の情報が入って来ない限りは、我はこれからも変わらずに闇奴を生み出す作業をするだけだ。スプリガンに関しては、とりあえずはゼノが戻って来ない限りは仕掛けるつもりもない。・・・・・・今はまだな」
変わらない、というよりかは変われないという方が正しいが、とレイゼロールは内心呟いた。
情報がない限りは、レイゼロールの目的の1つである「黒いカケラ」を収集する事は出来ない。スプリガンに関しては、不安要素は早めに消してしまいたいが、複数の最上位闇人たちや自分すら退けたスプリガンを消すのは、はっきりいって難しい。それこそ最強の闇人であるゼノが戻って来ない限りは、レイゼロールも容易にスプリガンに手を出す事はもう出来ないと考えていた。
本当ならば、今いる闇人たちや東京にいるシェルディアたち全てをスプリガンに当てたい所だが、そうすれば、光導姫や守護者の最上位の実力者たちもその場にやって来る。そうなれば、スプリガンなどは関係なくその場で光と闇の決戦が起きてしまう。数は明らかに光サイドの方が多いので、そうなれば不利になるのは自分たち闇サイドだ。スプリガンに対して戦力の一斉投入が出来なかった理由は、実はそれだった。
ゆえに、レイゼロールの行動はこれまでと同じ、「闇奴を生み出す」という事に変わりはない。つまり、レイゼロールの言いたい事はこのようなものだった。
「時間はある。だから、あまり焦りすぎるなよ響斬」
「そうですか・・・・・・・分かりました。気遣ってもらってすみませんね、レイゼロール様。ぼかぁ、やっぱりあなたが好きですよ」
「・・・・・・・・・・・・世辞はいい」
ポロリと響斬が漏らしたその言葉に、レイゼロールは少しだけ、ほんの少しだけ顔を赤く染めた。もちろん、響斬の好きという言葉は恋愛的なものではない。友好的とか、そう言った意味の方の好きだ。だが、真正面から「好き」などと普段は言われない言葉を受けたレイゼロールは、不覚にも羞恥の気持ちを抱いてしまった。
「あはは、そうですか。それじゃあ、ぼかぁこれで失礼します。また用があったら呼んでください。たぶん地下にいますので」
そんなレイゼロールを見て暖かな気持ちになった響斬は、そう言ってその場を後にした。
「・・・・・・・」
そして、暗闇の中でずっとレイゼロールと響斬の話を聞いていた冥も静かにどこかへと向かい始めた。




