第398話 今はまだ(3)
「・・・・・・・そうですね。正直に言うと、さっき冥くんと戦う前までのぼかぁそんな気持ちは皆無でした。日本にずっといる間に、ぼかぁ戦いよりもその他の娯楽に目を奪われるようになった。そして気づけば戦いにも飽いて、昔は毎日続けていた剣の鍛錬すらしなくなってしまった」
響斬は軽く下を向きながら、本心を吐露し始める。最上位闇人としての実力を失っている今の自分に、間違いなくレイゼロールは失望し怒っているだろう。頭の片隅で響斬はそう考えていた。
「でも、さっき冥くんと戦って、殺花くんに変わらぬ尊敬の念を向けられて、僕の気持ちは変わりました。――ぼかぁ、もう1度強くなります。また一から剣を極めるつもりです。時間はまた随分と掛かるかもしれません。ですが、気持ちはありますよ」
顔を上げて響斬はレイゼロールの問いにそう答えた。先ほども思ったこの気持ちは嘘ではない。
「そうか・・・・・・・・」
響斬の答えを聞いたレイゼロールは、まるでその答えを吟味するようにその瞼を閉じた。
「・・・・・・・・・・・ならば、我からはもう何も言うまい。また研鑽に励め、響斬」
「え・・・・・? そ、それだけですか?」
何かしら怒りの言葉を受けると思っていた響斬は、拍子抜けしたようにそう言った。
「ああ、それだけだ。お前がその気持ちを抱いているならば、またお前はかつての剣の腕を、実力を取り戻すだろう。お前はそういうタイプだ」
ここ100年ほどは会っていなかったが、レイゼロールと響斬はけっこう長い付き合いだ。確かに響斬は良くも悪くも多少は変わったのだろう。しかし根っこの、本質の部分はそう簡単に変わりはしない。今の響斬の答えを聞いて、レイゼロールは響斬のそこが変わっていない事を理解した。
「罰は与えん。お前にそういう少しだらしないところがあったのは我も知っていたからな。お前を長い間外に派遣していた我のミスでもある。・・・・・・・・だから、また励めよ響斬」
「ッ・・・・・・・」
レイゼロールのその言葉に、
響斬は不思議と懐かしい気持ちを覚えた。
(ああ、そうだった。この人は一見冷酷だけど、無駄に怒りはしない人だった・・・・・)
見た目の割に、レイゼロールは自分たち闇人にどこか甘い。もちろん怒る時は氷のように冷たく怒るし、光導姫や守護者といった敵には、容赦なく冷酷だ。だが身内というか、シェルディアを除いた十闇のメンバーには、レイゼロールは時折り優しさを見せる事がある。
「・・・・・・本当に、ぼかぁダメなクズ野朗だな」
気がつけば、響斬はポツリと自虐の言葉を漏らしていた。




