第397話 今はまだ(2)
「ほうほう、なるほど・・・・・・・・闇の力を使う謎の怪人ですか。ふーん、ぼかぁずっと日本の東京にいましたけど、まさかそんな奴が出現していたとは。いやー、世界は狭いですね」
レイゼロールからスプリガンの事を聞いた響斬は、のんびりとした口調でそんな感想を漏らした。響斬がいたのは東京の郊外。そして、どうやらそのスプリガンなる怪人は東京によく出没していたらしい。
「フェリートくんに、冥くんに、キベリアくんに、レイゼロール様を破った・・・・・・・・そのスプリガンって奴はえげつない強さの化け物ですね。少なくとも、今の僕じゃ5秒でボコボコにされそうだ」
「・・・・・・『剣鬼』の名を冠すお前が5秒でだと? どういうことだ? お前は冥と同レベルの強さのはずだろう。少なくとも5秒でお前がやられるわけがない」
響斬が漏らしたその言葉に、レイゼロールは疑問から眉をひそめた。レイゼロールは響斬の強さを、剣の腕を知っている。響斬の強さは本物だった。その響斬が5秒で負けるという事に、レイゼロールは理解が出来なかった。(ちなみに、キベリアがスプリガンに負けたという事実は、この前キベリアがシェルディアと共にここに戻ってきた時に、レイゼロールがキベリアから報告を受けた)
「あはは・・・・・・・レイゼロール様に言うのは間違いなく怒られるので、あまり言いたくはなかったんですが・・・・・・・まあ、言わなきゃダメですよね」
レイゼロールに話すのは気は進まなかったが、そもそも全て悪いのは自分だ。そして、この事はいずれ話さなければならないものだった。
「レイゼロール様。ぼかぁ――」
響斬は冥、殺花にした話をレイゼロールにも語った。自分の自堕落さ、そしてその事が原因の弱体化。自分に『剣鬼』の名を与えてくれた人物にこういった話をするのは、中々、いやかなり恥ずかしく申し訳ない気持ちになるな、と響斬は思った。
「・・・・・・というわけで、今のぼかぁ凄まじく弱くなってまして。元々、僕の最上位闇人としての実力は、闇の力ではなくて剣の腕の方に起因してましたし、レイゼロール様に封印を解いてもらっても、きっと今のぼかぁ並の、いやもしかしたら並以下の闇人と同じ実力だと思います。そういうわけで、もしそのスプリガンと戦ったならば、ぼかぁ5秒辺りでやられますね」
申し訳なさそうに頭を掻きながら、響斬はレイゼロールにその理由を話し終えた。響斬の話を聞き終えたレイゼロールはしばらく沈黙していたが、突如としてこんな事を問うてきた。
「・・・・・・・・・・・もう1度強くなりたいという心はあるか?」
「え・・・・・? 心・・・・・・ですか?」
レイゼロールのその問いに、響斬は驚いたようにそう聞き返した。
「ああ。答えろ、響斬。研鑽を怠り、錆びついたその剣の腕を、もう1度研ぎ輝かせたいと思うか? お前の正直な気持ちを我に聞かせろ」
美しいアイスブルーの瞳を、レイゼロールは響斬に向ける。その目は見る者全てに嘘をつかせない、圧を感じさせる目だった。




