第394話 第6の闇対第7の闇(5)
「う、うん久しぶり。たぶん大丈・・・・痛てッ! 左頬が尋常じゃないくらい痛いや・・・・・そ、そういえば冥くんにぶっ飛ばされて気を失ってたんだった・・・・・・・・」
何とか上体を起こしながら、響斬はそう呟いた。とにかく冥に殴られた左頬が痛む。そして触ってみた感じ、案の定頬は凄まじく腫れていた。
「冥が? あの粗野者め、響斬殿を殴り飛ばしそのままとは・・・・・・待っていてください、少し殺して来ます」
しゃがみながら響斬を介抱していた殺花が、響斬の呟きを聞き立ち上がった。その立ち姿には殺意が漲っていた。
「そ、それはやめてくれ殺花くん! 明らかに面倒でヤバイ事になるから! 全く、君と冥くんの不仲は相変わらずだな・・・・・・・・」
殺花の殺意を察知した響斬が慌ててそう言った。まだ腹部やら頬は激しく痛むが、それを一瞬忘れるくらい響斬は慌てた。響斬も殺花と冥の不仲の事はよく知っている。
「・・・・・分かりました、響斬殿がそう言うのならば」
響斬に引き止められた殺花は、不承不承といった感じで響斬の言葉に従った。殺花から殺気が消えた事を確認した響斬はホッと息を吐いた。
「それにね、殺花くん。冥くんは悪くないんだよ。いや、無理矢理戦いに巻き込んだからやっぱり多少は悪いかな? でも、ぼかぁ冥くんとの戦いに負けただけだ。だから、彼を恨んでなんかいないよ」
「・・・・・・・・すみません、響斬殿。己にはあまり話が見えて来ません。そもそも、なぜ力を解放していない響斬殿が力を解放している冥と戦いを? 響斬殿が戻って来られたのは、おそらく今日でしょう?」
「ああ、そうか。確かに殺花くんからしたら事情が分からないだろうね。うーん、恥を話すみたいで少し恥ずかしいけど、実はね――」
響斬はなぜ自分が冥と戦う事になったのか、その理由を話した。もちろん自分の弱体化などを包み隠さずにだ。
「――というわけで、ぼかぁぶっ飛ばされて意識を失ってたって感じさ。どうだい、軽蔑しただろ?」
あははと笑いながら、響斬は殺花にそう言った。殺花は非常に珍しい事であったが、響斬を尊敬してくれていた闇人だ。その理由についてまでは響斬も知らない。だが、今回の事で殺花が自分を軽蔑した事は間違いないだろうと思った。
「・・・・・・・いえ、響斬殿。己は響斬殿を軽蔑したりなどはしません。確かに、響斬殿の神域に迫っていた剣の腕が落ちた事は残念です。ですが、己が響斬殿を軽蔑するなどという事はあり得ません。むしろ、また尊敬し直させていただきました。不平等極まるハンデ、絶対に勝てないと分かっていても戦う姿勢。響斬殿の服装や嗜好は変わったかもしれませんが、あなたの芯は何一つとして変わってはいない」
「殺花くん・・・・・・・・・・」
殺花にしては言葉数が多かった。響斬は殺花という闇人があまり饒舌でない事を知っている。多分だが、それは今も変わっていないだろう。
そんな殺花が、自分のためにわざわざ言葉数多くそう言ってくれたのだ。響斬は嬉しいような、申し訳ないような、そんな気持ちになった。




