第393話 第6の闇対第7の闇(4)
自分が倒れそうなほどの前傾姿勢。その姿勢で駆けながら、響斬は刀を抜いた。
冥の肉体を真一文字に斬ろうとする響斬の刀。普通の人間ならば、恐らく反応する事は難しいだろう。研鑽を怠り錆び付いている剣ではあるが、その剣には、命を奪おうとする鋭さが確かに乗っていた。
「・・・・・・・・まあ、こんなもんだろうな」
だが、その剣を向ける相手は最上位闇人にして武人。冥からしてみれば、まだまだ反応する事が余裕な剣速だ。
避ける事は容易い。しかし冥は敢えてその一撃を避けなかった。
「っ・・・・・・・!?」
ガキィィィィィンと金属同士が衝突したような音が地下空間内に響いた。冥の硬質化した肉体に、響斬の刀が当たった音だ。そしてその音が示すように、響斬の一撃は冥の肉体を斬る事は出来なかった。
「緩い剣撃だな。また一から鍛え直せ」
冥は左手で響斬の右腕を掴んだ。響斬を逃がさないようにするためだ。
「とりあえず今日はこれで終いにしてやる。その代わり、一旦寝てろ」
「お、おいおい・・・・・・少しは手加減してくれよ?」
「そいつは無理だな。痛みの鍛錬だと思えよ」
血の気が引いた響斬の顔を見ながら、冥は闇を纏わせた自分の右の鉄拳を響斬の頬にぶち込んだ。
「ぶべっ・・・・・!?」
冥が拳打を響斬にぶち当てた瞬間、冥は左手で掴んでいた響斬の右手を離した。そのため、衝撃はその場に止まらず、響斬を冥がいる方向とは真逆の真場の縁までぶっ飛ばした。
「・・・・・・・・・・・・」
ガンッと再び真場の縁の見えない壁のようなものに激突した響斬。その衝撃が原因ではないが、真場の縁に激突していた響斬は、そのまま見えない壁のようなものにもたれかかるように意識を失っていた。
「・・・・・・・解除」
意識を失っている響斬に近づき、冥は真場を解除した。真場の解除により、響斬の体が地面へと倒れ込もうとする。冥は倒れ行く響斬の体を一瞬支えてやり、ゆっくりと地面へと寝かせた。
「・・・・・・・・・・お前がまた早く剣を極める事を楽しみにしてるぜ。その時は本気で戦り合おう。なあ、響斬」
自分以外誰も聞いていないであろう言葉を呟きながら、冥はその場を後にした。
「――き殿。響斬殿!」
「う、ん・・・・・・・?」
自分の名を呼ぶ声を聞き、響斬は意識を取り戻した。誰か人の顔が見える。女性だ。そして響斬はその女性に見覚えがあった。
「・・・・・・・・殺花くん?」
「はい響斬殿。殺花でございます。お久しぶりです。本当なら挨拶をしっかりとしたい所なのですが、今は省かせていただきます。誠にすみません。そして、大丈夫ですか? 気分が優れない所などはございますか?」
久方ぶりの邂逅の言葉もそぞろに、響斬の言葉に頷いた殺花は心配そうな表情で、そんな事を聞いてきた。今の殺花は普段顔の下半分を覆っている襟を下ろし、顔が全て露出していた。




