第392話 第6の闇対第7の闇(3)
「お前短期決戦狙ってるだろ。腹のダメージ、久しぶりの戦い、そういった事を踏まえるなら、お前の択は限られる。・・・・・・・ほらよ、鞘だ。受け取れ」
冥が響斬が落としていた鞘を拾って、響斬の方に投げた。響斬は「え? わっ、急!」と驚きながらも、左手でその鞘を受け取った。
「め、冥くん・・・・・・? 何でまた鞘を僕に渡してくれたんだい?」
響斬が理由を聞いた。その答えとして冥は少し口角を上げて言葉を放った。
「分かってるくせに聞くんじゃねえよ。お前は俺から距離を取った。んで、短期決戦を狙ってる。ならお前のやる事は、お前が行う攻撃はアレしかない。アレには鞘がいるだろ?」
「全く以って君って奴は・・・・・・・・・戦いになると普段の倍は頭が冴えるのやめてよね。どこかの戦闘民族かっての」
苦笑いを浮かべながらも、響斬はありがたく鞘に刀を納めた。冥が言うように、短期決戦を狙っている自分が出来る択はそれほど多くない。
(確かに冥くんの言う通り、僕が思い浮かべていた技もアレしかないけど・・・・・・・今の僕に出来るかな?)
先ほど響斬がアレしかないと考えていた技。それには冥の言う通り鞘が必要だった。だが、両手でしか刀を握れない(そうでなければ、重すぎて振れない)今の響斬は鞘を先ほどの場所に落としていた。
「だけどまあ・・・・・・やるしかないか」
どちらにせよ、響斬の選択肢は殆どないのだ。ならば一か八かあの技を決めるしかない。
「・・・・・・・・・・不思議だよ。絶対に勝てないはずなのに、それでもぼかぁなぜか足掻いてる。万に一の、億の一には勝利があると思ってるんだろうね。全く、どうやらぼかぁ救いようのない馬鹿らしいよ」
重心を低く、引く下げながら、響斬は鞘に納めた刀を腰だめに構える。左手で鞘を持ち、右手で刀を握る。
「くくっ、何言ってやがる響斬。それでいいんだよ。勝てないと分かっていても、勝つ事を諦めない。それは闘志が燃えてる証拠だ。俺たちの原初の姿勢。・・・・・・・少しはらしくなってきた。いや、戻ってきたじゃねえか」
冥はどこか嬉しそうに笑った。そして自身も再び構えを取る。
「確かに君の言う通りかもね。久しく忘れていた何かの欠片を感じた気がするよ。・・・・・・・それじゃあ、そろそろ行かせてもらおうか」
「ああ来いよ。次の一撃で終いだ」
先ほどとは逆に、響斬が真場の中心付近に、冥が真場の縁の部分で相対する。
(冥くんとの距離は大体4メートル。今の僕じゃ一息で距離は詰められない。しかも今履いてるのはゴム草履。悪条件ばかりだけど・・・・・・関係ないね)
これは雑念だ。響斬はその雑念を振り切る。そして極限まで集中力を高め、体を一瞬脱力させた。
「――我流、居合術。『無斬』
一瞬、糸目を少し開き響斬はその技の名を呟いた。そしてゴム草履の底が擦り切れるかと思うほどの踏み込みを行った。




