第390話 第6の闇対第7の闇(1)
「ゴホッゴホッ・・・・・・・・うへえ、ち、血を吐いたのなんて、な、何年振りだろ・・・・・・」
自分の吐いた闇人特有の黒い血を見つめ、響斬は口元を拭った。そしてヨロヨロとではあるが、立ち上がる。
「・・・・・・僕に戦いを教える、か。まあ、君の気持ちも分からなくはないよ。武人である君からしてみれば、確かに今のぼかぁ我慢ならない存在だろうしね」
呼吸を整えた響斬は、真場の中心にいる冥にそう言った。今の響斬にはあの殴打はかなりのダメージだった。何なら今も腹部は激しく痛む。しかも血を吐いたという事は肉体の内面にもダメージを受けたという事だろう。
それでも呼吸を整えれば、何とか普通には話せた。まあ我慢している事に変わりはないのだが。
「でもね、冥くん。戦いを教えるって言っても、今の僕はまだ力が封じられている状態だ。だから、死なないだけで、ほとんど普通の人間とは変わらない。そういうわけで、そもそも戦いにすらならないんだよ」
そう。今の響斬はまだ力を封じられている。闇人としての力を解放するためには、レイゼロールに封印を解いてもらうしかない。
そのため、今の響斬は死なないだけでただの人間と同じだ。身体能力に至っては、鍛錬を怠っていた事、最近は引きこもっていた事もあり、普通の人間より下になっているだろう。
兎にも角にも、今の響斬が冥と戦うなど不可能な事なのだ。響斬はその事を冥に伝えたのだった。
「・・・・・・・確かにそうだな。今のお前の条件で俺と戦うなんてのは、絶対に無理な事をやれって言ってるのと同じだ」
響斬の説明を聞いた冥は、静かに響斬の言い分に理解を示した。冥の言葉を聞いた響斬はホッと息を吐いた。
「分かってくれるかい。なら早く真場を解いて――」
「――だがな」
しかし、響斬が安心して言葉を紡ごうとした時、冥がそんな言葉を放った。そして冥は厳しい目を向けて言葉を続けた。
「それでも敢えて俺は言ってやる。俺と戦え響斬。俺に向かってこい。戦いを、闘争を思い出せ」
「・・・・・・・君って奴は、話が分からない奴だな。君のそういう所は、好きな時もあるけど・・・・・・今は嫌いだよ」
響斬が低い声でそう言った。その声は先ほどまでののんびりとしたものではなく、不快感を隠さない声だった。
「そうかい、別にそんな感想はどうでもいい。剣を抜け、響斬。もし抜かないって言うなら、一方的にボコボコにするぜ。全身の骨でも砕いてやる」
冥が闇を纏わせた体を構えた。冥の構えを見た響斬は、特大のため息を吐いて肩に掛けていたケースから刀を取り出した。冥の言葉が本気だと分かったからだ。
「全く無茶苦茶だよ・・・・・・ぼかぁ泣きそうだ。今のぼかぁ鉄すら斬れないんだぜ? そんな奴が硬質化した君の体を斬れるわけないだろ。というか、刀重っ・・・・・・・・」
黒い鞘に納められていた日本刀を抜きながら、響斬がボヤいた。発光する真場の光を受けて、刀身が鈍く輝やいた。




