第39話 邂逅せし光導姫たち(1)
陽華たちや光司の後を追い学校を飛び出した影人は、死んだ目で道を走っていた。
「・・・・・・・・」
なぜ自分は汗をかきながら今走っているのだろうか。突然、そんなことを思いながら影人は無心に近い気持ちで目的地を目指す。
「そろそろか・・・・・・」
5分ほど走り続け、周囲から人がいなくなってきたことに気づいた影人はポツリとそう呟いた。
そして路地を抜け影人は開けた場所に出た。
目の前には大きな川が流れている。そして右手に見えるのは川に掛かる橋だ。普段なら車が行き交っているであろうその橋も、結界の影響か車一台も見えない。
「・・・・・河川敷か」
思わず「まずいな」と呟く。ここは見晴らしが良すぎて、自分が隠れる場所がほとんどない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
影人がそんなことを考えていると、どこからか聞き覚えのある声がした。
見やると、影人がいる土手の下の河原で変身した陽華がその拳を振るっていた。
「ヴゥゥゥゥゥゥ!」
子犬のような唸り声を上げているのは、巨大な狸だった。どうやら今回の闇奴は狸型らしい。狸型というと、どこぞの猫型ロボットがよく狸に間違われるが、まあ、あの見た目なら狸と間違われても仕方ないと思う。
陽華がいるということは、明夜と光司も当然いる。明夜は、いつも通り、後衛での攻撃に徹しているし、光司は陽華と共に前線で戦っている。今は戦いに集中しているから土手にいる影人の姿に気づいていないだろうが、いつ気づかれるかわかったものではない。
「・・・・・どうするか」
一度、土手から離れ路地に戻った影人は一体どこからなら気づかれずに観察できるか考える。今回は、河川敷という見晴らしが良すぎる場所のため、自分が隠れられる場所がほとんどない。草の中に隠れようかとも考えたが、この河川敷はきちんと手入れされているのか、よく河川敷などにあるボーボーの草が全くない。かといって橋の下にも隠れる場所はなさそうだったし、さてどうするか。これには、自称かくれんぼマスターの影人も頭を悩ませる。
しかし、そうこうしている間にも戦いは続いている。まあ、光司がいるから大丈夫だろうと思っている影人だが、よくよく考えると光司はフェリート戦での傷がまだ癒えていない。光司は本調子ではないだろう。
いっそ、ここで待機するという選択肢もあるが、この前襲撃してきたフェリートとかいう闇人のことを考えると、やはりいつでも飛び出ることができるように、常に監視している必要がある。
「・・・・・これしかないか」
1つだけ、アイデアを思いついた影人は制服のポケットからペンデュラムを取り出した。
「今回は兎型ね・・・・」
ソレイユから合図により、目的地に到着した暁理は目の前の闇奴を見てそう呟いた。
特徴的な長い耳に丸い尻尾。白い毛皮に覆われたその獣は間違いなく兎だ。
ただし、通常の兎の何倍も大きいが。
「プップッ!」
兎は周囲のコンクリートを囓っていたが、暁理に気がつくと、そんな鳴き声を上げて威嚇してきた。
「鳴き声はかわいいんだけどさ・・・・・」
闇奴の鳴き声に呆れたような感想を漏らしながら、暁理は周囲の様子を窺う。目視した限り、周囲には人の姿は見当たらない。
(よかった、人的被害はなさそうだね・・・・・)
人の姿が見えないことを確認し、暁理はホッと息を吐く。なにせまだ結界は展開されていない。もしかすると、一般人に被害が出ていたかもしれないし、周囲にまだ人がいたかもしれないのだ。
「全く、政府の人たちは優秀だよ」
暁理がそう呟いた瞬間、
「プッ!」
兎型の闇奴が暁理を敵と見なしたのか、襲いかかってきた。
だが、暁理に慌てた様子は見られない。暁理は極めて冷静にブレスレットのついた右手を空に掲げた。
「――光の風よ、僕に力を」
するとブレスレットの宝石が強い緑色の輝きを放つ。そして、暁理を中心に風が渦巻いた。
「プッ!?」
暁理に襲いかかろうとしていた兎型の闇奴はその風に阻まれ、暁理に近づくことができない。
暁理の周囲を渦巻いていた風が次第に収まり、その中心から暁理が姿を現す。しかしその装いは先ほどとは違っていた。
淡いエメラルドグリーンのフードをかぶり、右手には壮麗な剣を持っている。フードの下からニヤリと笑みを浮かべて、暁理は名乗りを上げた。
「光導姫アカツキ、押して参るよ」
強化された身体能力で、アカツキは闇奴に向かって風のように斬りかかった。




