第386話 第7の闇の帰還(2)
しかし、そう思えるほどに冥の記憶の中の師は強かったのだ。
「集中力が切れちまったな、瞑想はこれくらいにしとくか。
さて、次は肉体の方の鍛錬でも――」
立ち上がった冥がガリガリと頭を掻く。ここはレイゼロールや冥たち最上位闇人の本拠地、その深い地下に作られた巨大な修練場だ。本来は暇な闇人たちが、バカスカと戦り合うように作られた場所なのだが、鍛錬も出来ない事はない。
本当は最上位の闇人の誰かと戦いたかったが、今いる闇人たちは冥のように戦闘が好きな人物たちではない。早く、冥と同じように戦いが好きな闇人たちに戻って来て欲しいものである。
冥がちょうどそんな事を思った時だった。どこからか、足音が聞こえてきた。
「あ? 誰だ・・・・・・?」
冥は足音が聞こえてくる方向に視線を向けた。今この修練場は、殆ど暗闇に包まれている。本来なら周囲に等間隔に炎が灯っているのだが、冥が瞑想用に予め周囲の炎を消していたのだ。そのため、炎は冥の近くにある蝋燭の炎1つだけ。そういった理由から、冥はこちらにやって来る人物の姿を確認する事が出来なかった。
(クラウンか? それとも陰険女か? キベリアとシェルディアの姉御はどっか行ったし、残ってる闇人どもはあの2人以外にはいねえが・・・・・・・・)
冥がクラウンと殺花、どちらか2人の顔を思い出しながら、しばらくその場で待っていると、その人物の姿が見えて来た。そして、その人物はクラウンと殺花どちらの人物でもなかった。
「やあ、冥くん。随分と久しぶりだ。相変わらずの美青年ぶりだね。ぼかぁ、君と会えて嬉しいよ」
蝋燭の炎に照らされたその人物は、のんびりとした口調で冥にそう言ってきた。
黒色のボサボサとした髪に、限りなく細い目――よく糸目と呼ばれる部類の目だ――それで見えているのかと思わず疑ってしまうほどの細さだ。
服装は上下灰色の動きやすそうな服装。いわゆるジャージと呼ばれるものだ。足元は黒色のサンダルを履いている。
撫で肩の左肩には、黒の長細いケースのようなものを背負っている。現代の人々が見れば、その男はスポーツ系の青年という印象を抱くのではないか。
「・・・・・・お前、響斬か?」
「僕以外に誰がいるのさ? 君の言う通り、ぼかぁ響斬だよ」
あははと笑いながら、響斬と呼ばれた青年はそう言葉を返した。
「お前服装はどうしたんだよ? 前は普通の和服だっただろ。だから、一瞬分からなかったぜ」
冥はまだ少し戸惑ったように響斬の服装に目を向けた。前にあった時(といっても、100年ほど前だが)は、響斬は和装だったからだ。
「時代の移り変わりってやつだねー。ぼかぁずっと日本に居たんだけど、今の日本であんなガチガチの和服着てる奴って殆どいなくてね。変に目立つのも嫌だし、ここ最近はずっとこいつを着てるよ。もちろん和服も一応残してあるけど、1度こいつの動きやすさを知ったらもう戻れないかなー。いやー、ジャージ最高」
自分の着ているジャージを指差しながら、響斬はにへらと笑った。どうやらよほど今の服装を気に入っているようだ。




