第385話 第7の闇の帰還(1)
「・・・・・・・・・・」
世界のどこか、周囲に広大な空間が広がっている場所。その中心の地面で胡座をかきながら、目を瞑っている1人の青年がいた。黒色の道士服に、長い髪を一括りの三つ編みにしたその人物は、最上位闇人の1人『狂拳』の冥だ。彼はいま精神面の鍛錬の1つとして瞑想を行なっていた。
(・・・・・・ゆっくりと精神を落ち着かせろ。俺があの時、スプリガンに負けた理由は何だ?)
普段の粗野な態度の冥とは一変、冥は静かに自問自答する。自分がスプリガンに負けた原因は何かと。
(1番の理由は決まってる。単純に俺があいつより弱かったからだ。だが、それは結果だ。俺には勝つために何が足りなかった? 逆に奴には何があった?)
冥から見ても、スプリガンの力は強大だった。フェリートの『万能』と似た闇の力であったが、ただそれだけの力ではない。スプリガンの力は強大で、フェリートの『万能』よりも万能であったように思える。
どんな状況にも瞬時に対応・適応できる力。そのような力も、自分が負けた要因の1つだろう。
(・・・・・・・・・・課題の1つとしては、俺も自分の闇の力を拡大しなきゃならないって事だな。いや、拡大解釈か。とりあえず、それはやらなきゃならねえ。肉体面に関してはもっと鍛える。それしかない)
出来るだけ客観的に、自分がやらなければならない事を列挙する冥。特に自分の闇の本質の拡大解釈は、そのまま純粋に自分の戦闘力を上げる事に直結する。
しかし、冥は理解していた。自分とスプリガン、その最もな違いについて。
(近接戦闘素人のスプリガンを結局俺が押し切れなかったワケ、それはあいつの鋼のような氷のような精神の強さだ。状況判断も奴は凄まじかった)
そう。スプリガンの最も厄介で強い点は、その精神の冷徹さだ。スプリガンはどんな状況でも焦る事はなく、冷静に全てを判断する。
しかもスプリガンは強気な選択を取れる時は、何の躊躇もなくその択を取ってくる。この冷静ゆえの大胆さ、とでも言うべき点も非常に厄介だ。
(あいつに勝つ為には、俺も戦いを楽しんでばっかりじゃなく、そういった精神を取り込まなきゃならないのかもな・・・・・・・けっ、癪だがジジイの言ってた通りか。「達人ゆえの精神を身につけろ」、よく言われたもんだぜ)
人間時代の、冥の武術の師匠の言葉を冥は思い出した。冥が闇人になってから、もう数百年以上はゆうに経っているので、あの死にそうで死ななかった翁ももうとっくに死んでいるだろうが。
「・・・・・・でも、あのジジイの強さは本物だったよな。あのジジイがもし生きてたら、今の俺でも勝てるかどうか怪しいってレベルだったからな」
目を開けた冥はポツリとそう呟いた。むろん今の冥は闇人だ。いくら武術を極めていたからといって、ただの人間に負ける道理はない。




