第384話 聖女帰国(6)
ファレルナはそのまま周囲の人々に笑顔を浮かべ続け、手を振りながら進んでいった。
「ふう、何とかお別れの言葉言えた・・・・・・じゃあ、明夜帰ろっか。せっかくだからこの近くのどっか寄って行く?」
「うーん、そうね・・・・・しばらくこっちら辺は来ることないだろうから、どっか寄って行きましょうか。あ、でも明日からしばらく私遊べないからね陽華。部活あるから」
「りょーかい。それじゃあ今日はとことん遊んじゃお! 夏休み初日、遊びまくるぞー!」
そんな事を話し合いながら、2人はガヤガヤとした空港内を後にするべく移動し始めた。
それから15分後、ファレルナを乗せた政府専用機は大空へと飛び立った。
「・・・・・・・・・行ったか」
青く澄んだ夏の空へと飛び立って行く飛行機を見つめながら、影人はポツリと言葉を漏らした。
いま影人がいる場所は飛行機の発着場その近くだ。空港内は人が多過ぎたし、ファレルナに気がつかれる可能性もゼロではなかったので、影人は外にいる事を選択した。
「あばよ、聖女サマ。出来れば2度と日本には来てくれるな。・・・・・・面倒事はごめんだからな」
飛行機の姿が徐々に小さくなっていく。影人は夏の日差しに前髪の下から目を細めつつ、そう呟いた。
「・・・・・・・・・・・帰るか。ついでに昼飯をどっかで食って行こう」
もうここにいる理由もない。影人は適当な食事処を探すべく歩き始めた。
だがファレルナの来日は、これから起こる様々な出来事の前触れでしかなかった。後に影人はそう思うことになる。しかし、今の影人は何も知らない。それは当然だ。未来のことなど、誰にも分かりはしないのだから。
影人にとって、波乱の夏休みが幕を開けた。




